【5月27日〜午前〜】
 
 
   朝食済ませて数分、藤ねぇは職員会議があるため、今日は顔を出しただけですぐに消えた。今、この居間にいるのは俺だけである。遠坂と桜は一緒に食器を洗っている。たまになにかを競っているように見えるが、それは気のせいだと信じたい………。
 やることがなく、まだ学校に行く時間ではなかったため、俺は今日から開始される試験の最終確認をしている。今日は数学と英語と世界史だったはずで、明日が化学と現代文と古文だったはずだ。まぁ、ただでさえ藤ねぇと遠坂が教えてくれているので英語は問題ないと思うが、数学がちょっとな……。さて、遠坂の彼氏として恥じないようがんばるか。
「せんぱ〜い、こっちも終わりましたし、今日は早く行きませんか?」
 こちらが数式と睨めっこしている間に、洗い物は終わっていたらしい。
「ああ、わかった。今、行くよ」
 俺はすぐに教科書類を片付け、玄関に向かった。そして玄関のドアを閉めて、通学路に沿って歩き出した。
「そういえば、桜。慎二の面倒は見なくていいのか?ここ最近ずっと、こっちに来ているけど……」
 そう、あの悪魔VS天使の事件以来、桜はずっと家に来ている。
「はい、大丈夫ですよ。兄さんにも了解は得ているので」
 極上の笑みでこちらを向いているが目が笑っていませんよ、桜さん……。慎二、臥床。
「はぁ、士郎も大変ね。けど桜、ちゃんと慎二の面倒も見なさいよ」
 遠坂さん、こうなったのは貴方のせいなんですけど……。
「あら、遠坂先輩、そんなに心配ですか?いつか私が先輩を取っちゃうのが」
 ほらみろ、遠坂。桜がご機嫌斜めじゃないか。しかし、桜もそこまで言わなくてもいいじゃないか。
「フフ、言うようになったじゃない、桜」
「フフ、そりゃ、伊達に遠坂先輩を見てませんからね〜」
 こんな会話が学校の前の坂まで続いた。
 誰か助けてください………。
 
 学校の下駄箱に着いて、それぞれ上履きに履き替えたあと、一旦下駄箱付近の広いスペースでおちあった。
「それでは先輩、遠坂先輩、失礼します」
 桜はそう言って自分のクラスに向かった。そして俺らもクラスに向かったが、途中で後ろから声をかけられた。
「お、とうとう同伴出勤か。熱いね〜まったく。おはよう、遠坂に衛宮」
 二人並んで歩いていた間から顔を出し、ポンと俺たちの肩を叩いてきたのは、現弓道部主将の美綴綾子である。
「普通挨拶が先だと思うぞ、美綴」
「ふん、毎回見せつけてきているんだから、これぐらいが、ちょうどいいんだよ」
 別にそういうわけではないんだよ、と心の中で思いながら遠坂を見た。
「それで、美綴さんはいい人を見つけました?」
 遠坂は赤い悪魔の顔をしている、多分答えが分かっているのに聞いてるな……さすが悪魔、恐ろしい。
「で、実際どうなの?綾子」
 うお、いきなり素に戻る遠坂。
「遠坂、分かってて言ってるでしょ?まったく」
 美綴は少し呆れている。そんな時、
「ふむ、衛宮ではないか、おはよう」
 そう言って廊下の向こう側から歩いてきたのは一成だ。
「ああ、おはよう一成」
 俺がそう言うと、一成は少し目を細めた。
「衛宮、一応言っておくが、今日から試験だ。こんなところで油を売っていて良いのか?」
「ああ、今回は少し自信があるんだ。そういう一成こそこんな時まで生徒会の用事なんてしていて大丈夫なのか?」
 一成はいつも点数が良く上位に食い込んでいるが、興味本位で質問してみる。
「なにをいっているんだ、衛宮。俺は試験勉強はいつもせんぞ」
 なんてことを言いやがるんだ、一成。そんなことクラスで言ったら大半を敵に回すことになるぞ。と、思いながらクラスに向かった。
「そういえば、衛宮。お前確か、いつもの試験なら朝は教科書読んでいるのが基本だったじゃないか?」
 そんな質問を美綴がしてきたが、美綴はすぐに遠坂の方を見てニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「悪魔はやさしかったか?」
 な、なんて事を聞くんですかこの人は……。確かに最初はやさしかった、やさしかったよ。でも時間が過ぎていくごとに、遠坂は俺が間違えたらガンドを飛ばすようになっていった。いやはや、問題を間違えられなくなっていって、本当に大変だった。
「な、ん、で、士郎は黙っているのかしら」
 案の定……悪・魔・降・臨。
「いや、黙っていたわけじゃ……」
「何も言わなかったじゃないの」
「いや、遠坂。あの時はやさしいというより厳しかったから……」
「あっそう。衛宮くんに悪いことをしてしまったようね」
「遠坂、そういう意味じゃないだろ」
「じゃあ、どういう意味よ」
「だから……」
 冷や汗をだらだら背中に掻きながら言う俺……無残。
「遠坂、衛宮、夫婦喧嘩はやめてくれない?」
「まだ、夫婦じゃないぞ」「まだ、夫婦じゃないわよ」
 遠坂と声がシンクロした。
「突っこみどころが多すぎて、あたしゃ呆れるしかないね」
「雌狐とは手を切れと言ったではないか、衛宮」
 もう手遅れなんだ一成……。赤い悪魔に魅せられてしまった俺は、もう抜け出せないところまで深みに嵌ってしまったのだよ……。
「衛宮君後でお話、いいかしら」
 そう言って遠坂は俺を見ながら微笑んでいた。
「ま、ドンマイ」
 ポンと俺の肩を叩いて、遠坂の後ろの席に着く美綴。……って、あんたのせいだよ。
「衛宮そろそろ予鈴がなるぞ」
 一成の一言で俺も我にかえった。
「あ、あーわかっているよ」
 あとが怖いが、今は試験に集中しよう。『同調開始』


〜1日目試験終了〜

 
 現在、まだご立腹中の遠坂と帰っている。
「なあ、遠坂」
「ふーん」
 絶賛無視されております。
「遠坂、そのすまなかった」
「ふーん、どうせ士郎には余計なお節介だったわよね」
「いや、ち、違うから遠坂そのすごく助かっているから」
 と、言ってもこっちを見てくれない遠坂が
「……み・なさ・よ」
 と言って、こっちを見て
「なら、見せなさいよ。どれくらい助かっているか、」
 そう言いながら、唇をこっちに近づけてきた。
「ちょ、ちょっとまて遠坂、流石に外では」
「ふーん、やっぱそれぐらいにしか士郎はわたしのことを思ってくれて無かったのね」
「い、いやそういうわけでは、って分かったよ」
 そう言って俺は少し力押しにキスをした。
「その、分かったか、どれぐらい助かっているか」
 完全に真っ赤な俺らだが
「うん♪」
 遠坂は満足そうだ。
「それじゃ帰るか」
 そう言って俺は遠坂に手を差し出した。
「ええそうね。帰りましょう」
 遠坂は、しっかり手を握ってくれた。そして俺たちが前を向いたら、同じクラスの三枝、氷室、蒔時が走り去っていった。
「見られたな」
「見られたわね」
「明日、試験だけど、ある意味で俺にとっては試練かもしれないな」
 なんて独り言まじりに遠坂に言いながら、手を繋いで家に帰った。

 

《二日目(後編)終了》

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