【5月28日〜午前〜】
 
 
 現在時刻は午前七時である。いつもなら遠坂と桜も一緒に登校するのだが、昨日の事件が頭をよぎり、俺一人で教室に来た。
 さすがに教室には誰もいないだろうと思っていたが、やはり試験前だけあって、ほかにも数名勉強している。俺は、理科でも勉強するとしよう。
“ガラガラ”
 勉強しようと教科書を取り出したところで教室のドアが開き、一成が入ってきた。
「うむ?衛宮ではないか。おはよう」
「ああ、一成おはよう。しかし今日は早いな」
「それは衛宮とて同じであろう。どうしたのだ、こんな早くに」
「まあ……ちょっとな」
 少し言い淀んでしまった。さすがに遠坂とのキスシーンを蒔寺達に見られたから先に着たとは言えない。一成には特に言えない。ある意味で、遠坂ファンのみなさんよりも怖い。
「なんだ、その顔は………まさか女狐絡みでは?」
「一成」
「す、すまん。衛宮の前では女狐の話題はあまりしないようしていたのだがな……すまない。まだ俺も修業不足だな。…し、しかしその顔はやめてくれ。すごく怖いのだ」
 なぜか一成が苦笑いをしている。そんなに怖いのか俺の顔?
「あ、すまん。って、それより勉強、勉強」
「なんだ、衛宮。昨日は余裕だったのではないか?」
「いや、化学は苦手なんだよ」
「ふむ、意外だな。機械に強い衛宮を知っているためか、化学もできると思っていた」
「いや、ちょっとね。この赤リンと、黄リンのこの所なんだが」
「ふむ、微弱ながら少し手伝おう」
 そうして本日の試験対策勉強がはじまった。この後、試練があるともしれずに……
 
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Side Rin
 
 今日は桜と二人だけの朝食だった。
「あら、遠坂先輩。先輩は?」
 朝、離れのわたしの部屋には、士郎が起こしに来ないで桜が起こしにきた。
「さあ?桜は知らない?」
「いえ、ねえさっ…遠坂先輩が知っていると思って……」
「はぁ。今は良いわよ、『姉さん』と呼んでも」
「ええ、すみません。姉さん」
 まだ士郎には、わたしと桜の関係は伝えていない。ただ、わたしが士郎を恋人としてから、桜と和解して、桜はわたしと二人きりの時は『姉さん』と呼ぶようになっていた。
「別に良いわよ。ある意味桜も士郎の家族なんだから、時間的問題よ。アンタがわたしのことを『姉さん』と呼ぶのは」
「っ、それはどういう意味ですか?まだ名前で呼ばれていない遠坂先輩?」
 痛いところ突くじゃないの、桜。
「あれは士郎の照れ隠しよ、照れ隠し」
「それはどうでしょうか」
「な、なによ。士郎もかわいいところがあるのよ」
「あら、姉さん。そんな甘い考えでは、わたしに先輩を取られますよ。よくあるじゃないですか、先輩と後輩の甘い恋」
「ふ、そんなのは幻想よ幻想」
「どうでしょうね」
 なんなのよ桜、その笑みは……。いつからこんな意地悪な子になったのか……。きっと慎二ね。慎二退院したらガンドを三発ぐらい当てることにしよう。
「やけに余裕じゃない、桜。士郎にわたしのことを凛って呼ばせて見せるわよ」
「まあ、がんばってください。私は一年は掛かりましたけど、姉さんなら半月で済むかもしれません」
 なんか、すごくバカにされている気がするのは気のせいかしら?
「なにを言っているの、桜?見てなさい、明日にでも呼ばせてみせるから」
「はいはい、それよりホントに先輩知らないんですか?」
「知らないわよ」
 心当たりはある。昨日のことを思いだし、思わず少しにやけてしまった。
「そうですか」
 どうやらわたしの言葉と表情は、桜のセンサーに引っかかったようだ。
「それじゃ、仕方がないから二人で食べましょうか、桜?」
 そういえば、桜と二人だけで朝食をとるのは初めてかもしれない。
「え、あ、はい姉さん♪」
 わたしたちは姉妹水入らずの朝食を楽しんだ。
 そして少し食べ過ぎたので食休みを取っていたら、遅刻ぎりぎりと着くような時間帯になったしまった。
 桜と分かれて、自分のクラスに向かい、自分の席に着いた。試験まではまだ、二・三分ある。後ろの綾子はまだ来ていない。それに昨日の三人もいない。士郎は……あっ、いた、いた。何やら柳洞君と話しているみたいね、少し魔力を耳に膨張させて、士郎と柳洞君の二人の会話を盗み聞いていた。
「……だからな衛宮、……っだから………」
 よく聞くと、わたしの話題のように聞こえる。
「だけどな、一成」
 その調子よ士郎。
「……で、……じゃな……リンは」
 え、今なんて………凛って……。
「し、士郎今なんて言ったの!!」
 そしてわたしは教室にいる生徒全員に聞こえる声で、士郎に向かって叫んでしまった。

Side out
 
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 試験開始まで、二・三分の所で最後の確認をしていた。
「もう最後だ。だから衛宮、同素体は二種類で」
「ああ、赤リンがP4で黄リンじゃないんだよな。黄リンは」
 その時、遠坂の席から大きな音が聞こえて、
「し、士郎今なんて言ったの!!」
 クラス中の注目を浴びながら、遠坂は唐突にもそんなことを聞いてきた。
「あんたら、とうとう学校でもラブラブオーラを全快に出し始めたのか」
 丁度、遠坂の後ろ席に向かう途中の美綴が俺の前を通り過ぎるときにボソっと呟いていった。
 そしてタイミングが悪く、陸上部の三人組が教室に入ってきた。
「あ、昨日の路上キスしてたバカップルだ」
 静まりかえった教室に蒔寺の声が響き渡った。そして始業のチャイムが鳴った。
「みんな、ごめん少し遅れ……ってどうしたの?」
 藤ねえも教室に入ったきた。しかし、誰も反応しない。凍ったように固まる教室内の空気。そして………
「「「「えええええええええええええええええええええええええええ」」」」
 教室内は騒然となった。これが、怒濤の如き一日の始まりだった。
 …………テストなんですよ、みなさん。
 
《三日目(前編)終了》
 
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