【五月二十七日〜朝〜】
 
〜衛宮邸〜

 現在の時刻、朝六時前……。
 俺は今、幸せの固有結界を展開している。布団から這い出ようとしたが出ようとする瞬間首根っこ捕まれて
「しろう、だめ〜」
 と、隣で爆睡中の遠坂に捕まれ抱き枕のような状態である。文句があるのかと、聞かれれば、否、断じて否なのだが、そろそろ起きないと朝食の準備が遅れてしまう。しかも今回は虎だけではなく、最近やけに積極的になった『黒い天使』もとい桜も、朝食を一緒に食べるわけで……。このままいくと、あの悪夢がまた繰り返されてしまう。『赤い悪魔』VS『黒い天使』&『冬木の虎』。三つ巴の冷戦だった。名づけて第一次衛宮邸大戦。あれは二度と起こしてはいけないと本能が言っている。あの二週間前の惨劇は・・・

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〜二週間ほど前のとある日。朝の出来事〜


 俺は寝過ごしてしまった。理由は明白だ。勉強会も魔術講座も深夜遅くまで行われる。そのとき遠坂を一人で帰らせるわけにはいかないため、泊まってもらうのは当たりまえのことだ。そのあと、恋人同士なのだからまあ、いろいろあるわけで………。そのせいもあり俺は完全に寝過ごし、もう朝食の時間が迫っていた。俺は今だ布団から出られずにいる。ここにいるのが俺だけだったら何の問題もないのだ。
 俺の耳元で、すぅ〜すぅ〜と規則正しいリズムで寝息が聞こえる。そう、遠坂が今だ、隣で淫らな格好をして爆睡している………。このままいけば間違いなく桜に見られる。
『……まずい』
 心の中で桜が来ないように祈っていた。しかし神は俺に微笑みはせず、嘲笑した。なんと藤ねえが来てしまった。
「士郎、何時まで寝ているのかな〜。もう桜ちゃんが朝食作っているし、そろそろ遠坂さんも来ちゃうよ」
 などと言いながら俺の部屋の戸を開けてしまった。
 流れる静寂。聖杯戦争でも感じなかった緊迫感。それは、まるで固有結界。
 それもそうだろう……。戸を開けたら上半身裸の俺とその隣で寝ている遠坂、それを直視した藤ねえ。 
 この静寂を破ったのは遠坂だった。
「ありぇ、しろうだ、しろう〜しゅき〜」
 そう言って、藤ねえが凝視する目の前で遠坂が俺に抱きついたため、固有結界は破壊された。

 
〜それから数分〜


 とにかく服を着ないといけないので一旦藤ねえには出てもらって俺と遠坂は制服を着て居間にいった。すると居間の中は、まるで裁判所のような厳粛な雰囲気が漂っていた。テーブルには料理が並べられている。最初に口を開いたのは桜だった。
「これよりなぜ、先輩の部屋に遠坂先輩が居たのか事情聴視を開始したいと思います。司会と副議長はわたし、間桐桜。議長は藤村先生にお願いします」
「うむ、桜ちゃんよろしくね〜。さて」
 と、一つ咳払いをして藤ねえ。
「さて、ことに衛宮士郎君、言い残すことはあるかね?」
「え〜とだな、そのう・・・」
 あまりに突然のことだったため、俺は返答を言い淀んでしまった。
「先輩、私は確かに、遠坂先輩との関係は認めましたよ……確かに。しかしここまで見せ付けなくてもいいんじゃないんですか、遠坂先輩」
 うわっ、笑顔がこわいよ、桜。お兄ちゃんは桜をそんな子に育てた覚えはないよ……。
「いや、あのね、桜。士郎がどうしても、『今日は遅いから泊まっていけ』って言うから、その言葉に甘えさせてもらっただけで……」
「ごぅぅぅらぁああああああ!!」
 虎が吠えた。
「なにが『今日は遅いから泊まっていけ』よ。私は士郎をそんな子に育てた覚えはないよ。やっぱりキリツグさんの息子だからか……。あ〜、キリツグさんを思い出すわ。もう、しっかり貴方の息子は貴方そっくりになりましたよ」
 ヨヨヨと泣き崩れる藤ねえ。
「いやまず、俺は藤ねえに育てられた覚えはないよ」
 半分呆れながら言っていると、ずっと黙っていた遠坂が宣戦布告した。
「先生にも桜にもとやかく言われるようなことをした覚えがありません。わたしはただ、士郎と愛を確かめ合っていただけですから」
 うわっ遠坂さん、なんてことを言うのですか、と思いながら遠坂の顔を見やると『赤い悪魔』の笑みがちらっと見えた。さらに言えば、桜・藤ねえの顔を、勇気を振り絞って見たら、
 冬木の虎は、口がコイのようにパクパク。
 黒い天使はこそこそ何かを言っている
「そうですか、…さんがそういうことならこっちも……でいきますよ。フフフ」

 

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 あのあとの記憶は覚えていない。きっと、あまりの恐怖に俺の脳が勝手にデリートしたのだ。思い出すだけで鳥肌が立つ。
 しかしその経験から、最近やっと遠坂の起こし方がわかってきた。
「遠坂起きろ」
 俺はそう言い、遠坂の口に、俺の口を当てる。
「ふにゃ、ありぇ士郎おはよう」
「ああ、おはよう」
 そう、俺がキスをすると遠坂はなぜか起きる。本当に最近わかったことだ。
「そろそろ、準備しよう。桜たちが来る前に」
「ええそうね、んじゃ後で居間でね」
 そう言いながら遠坂は、はだけた猫のパシャマを整えて着替えを取りに離れへと向かう素振りを見せて、俺の方にまた振り返った。
「あ、そうだ」
 そう言って、俺の前に立ち
「チュ、士郎おはよう」
 遠坂と口付けをした。
 
 これが最近の朝の光景である  
 

《二日目(前編)終了》

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