「ここで火事が起こったのか」
 教会を出た俺たちは、火災のあった現場に来ていた。
「これはひどいですね」
 被害にあったホテルは、原型すら留めておらず瓦礫の山と化していた。死者が出なかったことが奇跡と思われるほど跡形もなく、残骸だけがそこにあった。
「これは異様な風景としか言いようがねえよな。よくもまあ、ここまで派手にやったもんだぜ」
 もう一つ、この場所が明らかに異質と言える要素があった。
「本当よね。これだけホテルが灼け崩れてるというのにその周りの建物は焼け跡一つ付いてないなんて……」
 まるでホテルの残骸を見下ろすかのように、周りのビルは平然と並立している。焼け跡だけがぽっかりとあいた穴のように存在し、余計に周りからは断絶された空気を纏って見えた。
「これほど目立つのに、世間はあまり騒がないんだな」
「その辺は、教会がなんとかしてるんでしょ。ここには結界が張ってあるし、普通人には認識阻害が働くようね」
 見回すと、マスコミの姿は既になく、人々も通常通りの動きをしている。
「しかし、考えたもんだぜ。ここまで無茶苦茶に壊されちまうと証拠があまり残らねえ」
「ええ。このマスター、なかなか頭の切れるヤツだわ。派手な行動を起こした割には、自分たちが不利になるような手掛かりを全く残していない。雑魚かと思ってたけど、警戒を厳しくする必要があるわね」
  その場凌ぎにしかならず、暴挙とも思えた敵の行動だが、現場の検証を続ける内に、実に緻密に計算された計画的な犯行であることが判明した。
「くそっ。人を傷つけながらも、それが理にかなってるなんて」
「そうね。わたしも、コイツら戦い方は最低だと思うわ。それでも、これが最善の手であるということも否定はできない」
  聖杯戦争とは、七人のマスターとそのサーヴァント達が命を賭して一つの聖杯をめぐり殺し合う儀式である。そこに、人間の常識や慈悲などは通用しない。
「シロウ、このままですとこのマスターは更に強くなる。それに、次に犠牲が出ることになるやも知れない」
「ああ。早い内にコイツらを無力化しなければ、取り返しのつかない事態になりかねないからな」
「そうね。だから今日は今後を占う意味でも、勝負の一日となるわね」

 今宵、四人を待ち受ける結末は生か死か。戦いの火蓋が切って落とされる。

 

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