「あなたは誰?」
 わたしは、彼に向かって問いかけた。しかし、彼からの返事はない。
「あなたは、わたしの中で何をしているの?」
 すると彼はわたしの方を向いた。

《外に出たい》

 彼自身が口にしたわけではないが、そんな想いがわたしの中に入り込んできた。とても強い想いだった。
「あなたはどうして、外に出たいの?」
 わたしは彼に、そう尋ねた。そして彼は再び想いをぶつけてきた。

《外に出たい》

 彼の答えはわたしの質問に対する答えにはなっていなかった。だけどわたしは彼の言葉で、彼が外に出ること以外望んでいないことを理解した。
「あなたは誰なの?」
 彼は、わたしの方を向いたまま黙っていた。

《外に出たい》

 わたしも彼を見つめて黙っている。

《外に出たい》

 沈黙が続く。

《外に出たい》

 わたしも彼も話はしていない。

《外に出たい》

 それなのに、わたしの心には彼の想いが津波となって押し寄せてくる。

《外に出たい》

 騒音が鳴り響く。

《外に出たい》

 彼の想いに押しつぶされそうになる。

《外に出たい》

 わたしは彼に消されるのかも知れない。

 

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