俺たちは、新都の火災現場を訪れた後、遠坂たちの買い物に付き合って、今ボーリング場にいる。
「なぁ、セイバー」
  昼頃からボーリングをはじめたわけだが……
「む、シロウは勝ち逃げをするような人だったのですね」
  既に7ゲームを終え、8ゲーム目がはじまろうとしている。
「いいじゃない。セイバーも気に入ってくれたみたいだし」
  ボーリングに行こうと遠坂が言いだしたときに止めなかった俺はバカだと思う。
「坊主、そろそろ負けてやったらどうだ」
  ランサーが二人には聞こえないような小声でそっとつぶやいた。
「できることならやってるさ」
  手加減して負けようとすれば、二人は本気で怒るのだ。ものすごい剣幕で責められたら、真剣にやらざるをえない。
「シロウ、なにをしているのです」
  セイバーは、次のゲームをやりたくてうずうずしている。しかしながら、女の子の買い物に付き合った後にボーリングを7ゲームである。俺の体力はもはや限界だ。この後に敵との戦闘があると思うとぞっとする。
「いや。もう終わりにしよう、セイバー。ここで体力を使い果たして、もう戦えませんって状態になったら本末転倒だからさ」
「そうやってシロウは逃げるのですね」
 セイバーは実に不満げな顔をした。
「逃げてない。確かにセイバーはまだ疲れてないかも知れないけど、俺や遠坂のような生身の人間にはちょっとばかしつらいんだよ。今日は終わりにしよう。そのかわり、またみんなでここに来よう」
  俺がそう言うと、セイバーは寂しそうな顔をして押し黙ってしまった。
「だめか?」
「あと1ゲームだけでもいいのです。だから続きを……」
  セイバーは必死にそう訴えてきた。
「どうして、セイバーはそんなにゲームを続けることにこだわるんだ?俺の言葉を理解してくれてないわけではないんだろう?」
「それは……」
  再びセイバーは沈黙した。すると遠坂が声をあげた。
「セイバーはこれがわたしたちと遊ぶ最後の機会だと思っているのよね」
  遠坂の言葉に、セイバーは驚いた表情をした。
「凛、私は……」
「図星よね」
  遠坂に言葉を切られ、セイバーは言い返せない。
「貴女はサーヴァントだから、聖杯戦争が終わればこの世界からはいなくなる。そうなる前に、せめてもの思い出をこの世界でつくりたいと思った。そうでしょう?」
「……………」
  セイバーは完全に言葉を失ってしまった。しかし、遠坂の言葉を否定しないところをみるとセイバーがこの世界で思い出をつくりたいと思ってくれているのは確かなようだ。
「セイバーが俺たちとの思い出をつくりたいと思ってくれているのなら、尚更今日のところはボーリングを終わりにしよう」
  セイバーが俺たちとの時間を大切に思ってくれていることはすごく嬉しい。でも、その前提に俺たちとの別れがあることが悲しかった。だから、俺はここに誓う。
「聖杯戦争が終わったら、またみんなでここに来よう」
  決して叶わないはずの夢。それでも俺はこの夢をあきらめない。
「そのときはいくらでもセイバーのわがままに付き合うって約束する」
 セイバーからの答えはなかった。それでも、セイバーが少しづつ自分のことを考えるようになってきたのは確かだと思う。まだ聖杯戦争は始まったばかりだ。セイバーがいくら否定しようとも、俺はこの約束を絶対に守ってみせる。

 

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