「嬢ちゃん、敵だ」
  異変は突如現われた。
「タイミングがいいわね。これは幸先がいいわ」
  ボーリング場を後にし、今俺たちは新都の見回りをしていた。
「セイバー、相手の場所はわかるか?」
「ええ。微弱ではありますが、敵は魔術を使用したみたいですね。おそらく、大規模な魔術の発動に必要な準備を行なったのだと思います。ですから、魔術が使用された場所に行けば敵と遭遇する可能性は大きいかと」
  なるほど、先程から甘い香りが漂いだしたのはそれだったのか。
「よし。すぐに行こう」
「はい」
 セイバーが返事をすると、俺たちは一斉に走りだした。疾風のごとく、夜の新都を駆け抜ける。
「ついに始まるわね」
  生きるか死ぬかの殺し合い。恐くはないと言えば、それは嘘だ。しかし、体は高揚感に満ちている。
「坊主、戦いの準備はできてるんだろうな」
「ああ。この戦いは負けられない。敵には容赦しないし、犠牲は絶対にださない」
 正義の味方として、偽善だと罵られようが、俺は全ての人を救ってみせる。
「容赦しないっつうのと、犠牲はださないっつうのは矛盾してるぜ」
  必ず生まれるはずの犠牲は確かに存在する。自分を殺しにくる敵の存在は、救うわけには行かない。情けをかければそれは容赦のない戦いではなくなり、相手を排除することは犠牲が生まれるということにつながる。
「わかっているさ。相手を殺す気概で臨まなければ、俺が殺される。それでも、俺は犠牲をださないことをあきらめない。どんなに不可能なことでも、正義の味方を目指すかぎり、一人たりとも死なせはしない」
  殺さずとも皆を救うことは不可能ではないはずだ。それがたとえ奇跡と呼ばれるものでも、俺は希求し続ける。英雄エミヤと同じ運命を辿らないように、衛宮士郎は衛宮士郎の道を歩む。
「はっ。考えは甘いが、オレは坊主みたいなヤツは好きだぜ」
「ランサーに好かれても嬉しくないな」
「ちげえねえ。坊主は嬢ちゃんにぞっこんだしな」
「なっ!!」
「違うのか?」
 コイツ、やっぱり腹が立つ。
「まぁ、嬢ちゃんも坊主の虜になってるみてえだし、相思相愛ってところか」
「アンタね。これから戦いなんだから少しは緊張感を持ちなさいよ」
「顔を真っ赤にしてるヤツに言われたかねえなぁ。なぁ、嬢ちゃん」
 遠坂の顔は紅潮していて、俺と目が合うなり顔を伏せてしまった。それを見るなりランサーが言った。
「オマエら惚気てんな」
「なんでさ?」
 というか、なぜそう繋がる。
「こりゃ、誰から見ても惚気だろ」
「そんなことないわよ。ねえ、セイバー」
「早く行きますよ。敵に逃げられます」
 どうやらセイバーさんご立腹です。なんでさ?

 

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