「坊主の料理、うまいな」
 現在時刻は、7時を少しまわったところ。俺と遠坂、セイバーそしてランサーも加わって朝の食卓を囲んでいる。
「この味は実に久しぶりです。やはりシロウの料理はおいしい」
 こくこくと頷きながら幸せそうに食べるセイバー。このような反応をしてくれると作る側としても嬉しい。
「とは言っても、ほとんどパンを焼いただけよね」
 呆れ顔で遠坂が答える。
「いえ、このサラダやスープは絶品だ。それにパンの焼き加減も絶妙。さすがはシロウだと思います」
「セイバーの口に合ったようで何よりだよ」
「この時代には美味い料理があったんだな。オレはあの赤くてとにかく辛いヤツしかこっちで食ってねえから軽く感動してるぜ」
 ランサーも相当気に入ってくれたようだ。というか、赤くて辛い料理ってなんだ?
「まぁ、わたしも士郎の料理は好きだけどね。……ねぇ士郎、テレビつけていい?」
「いいぞ。ニュースでも見るのか」
 そう言えば、普段はあまり食事中にテレビをつけないよな遠坂は。
「ええ。今日は少し気になるのよね。聖杯戦争も始まったし」
 なるほど、民間のニュースでも聖杯戦争の手掛かりが見つかるかも知れないしな。
《昨日深夜11時頃、冬木市においてホテルが全焼するという火事が発生しました。火災により、32人が意識不明で病院に搬送されました。被害のあったいずれの方も目立った外傷はなく、死傷者も今のところは出ていないません。被害にあったホテルは、コンクリート造りの7階建ての建物で、出火の原因は現在不明ままです。現場を目撃した方に当局の取材班が話を伺ったところ、現場は火事が発生するまでは何事も起こらず、突然7階建てのビルが一瞬で青い炎包まれたとのことです。その後、消防が駆けつけ消火活動が開始されましたが、炎の勢いは全く衰えず、建物が全焼した後に唐突に火が消え去ったとのことです。警察は事故と放火の両面で捜査を続けて…………………》
「なぁ遠坂、これって……」
 サーヴァントの仕業じゃないのか?
「ええ。ここまで不自然なことが多ければ、間違いなくサーヴァントの仕業ね」
「くそ。もう動き出してきたか」
 思ったよりも早く、事態が進展した。
「シロウ、凛、ここは一刻も早く敵を倒すべきだ」
 確かに被害者までもが出てしまった。さらなる被害者を出さないためにもすぐに出発するべきではある。
「いや、情報が足らなすぎる。無闇に敵の懐に飛び込むのは危険だ」
 前回の聖杯戦争もその場凌ぎの作戦で、何度も失敗をした。やはり、事前の情報なしで戦うのはリスクが多すぎる。
「しかし、シロウ」
 セイバーもハイリスクであることは重々承知なのだろう。力のこもった声で訴えかけてくる。
「セイバーの気持ちは分かる。一人でも犠牲者を増やしたくないのは俺も一緒だ。それでも、俺たちがやられちまったら意味がないだろ?出たとこ勝負の戦いを仕掛けるのは得策ではないと思う」
「確かに士郎の言うことも一理あるわ。でも、今回はセイバーの方が正しいかも知れないわね」
「そうなのか?でも、相手が罠でも仕掛けてたらどうするんだ?」
「その可能性は薄いわ。ただ、ないとも言い切れないわね」
「なんでさ?」
 遠坂はどこからかメガネを取り出して、説明をはじめた。
「理由は三つ。まず一つ目は、全てのサーヴァントが召喚されてからまだ日が浅いこと。昨日念のため教会に電話をかけて確認したんだけど、一昨日にバーサーカー・アサシン・アーチャー、昨日ライダーとキャスター召喚されたようね。それを考えると罠を張ってあるとしても、あまり強力なものではないはずだわ」
 確かに一日や二日では、大規模な結界などは張ることができない。
「二つ目は、炎が建物全体を包んだことよ。もし、サーヴァント同士が戦っていたのならばわざわざ建物全体を火事にする必要はないわ。このサーヴァントとマスターは、生気を吸収して魔力に変換するためにホテルを襲ったのでしょうね。その証拠に誰一人死んでいないわ。死んでしまったら、その時点で生気が吸えなくなるもの」
 正気じゃないな。人間の生気を魔力に変換するなんて。
「三つ目は、夜のホテルで火災が起こったこと。夜のホテルなら、確実に沢山の人間がいるし、運がよければマスターも滞在しているかも知れないから一石二鳥だわ。それを考えると今夜も動きがある可能性が高いわね」
「なるほどな。つまり、その動いてきたところを狙い討ちにしようってことか」
「そゆこと。憶測に過ぎないけど、サーヴァントに生気を吸わせるほどのマスターだから、たいしたことはないだろうし、早い内に倒さないと相手の魔力が増えていくからね」
「よし、それなら冬木に行くか。鉄は冷めない内に打てだ」
「いいえ。さっきも言ったように敵は夜に動き出す可能性が高いわ。それまでは戦いの準備をしたほうがいいわね」
「ほう。冴えてるな嬢ちゃん。そんで、これから何をするんだ?」
 感心した様子でランサーが口を開いた。ランサーの満足げな表情から察するに、遠坂と同じことを考えていたのだろう。
「衛宮くんが言うように情報が少なすぎるっていうのも一理あるわ。そこで、多少の情報収集を戦いの前にしておくべきね」
「では、現場に向かいますか?」
 セイバーが落ち着かない様子で尋ねた。
「いいえ。まずは教会に行きましょう。あそこなら何かしらの情報が入っているかも知れないわ。綺礼もいないから、文句は言われないと思うし」
 聖杯戦争関連の後処理を任されているのは教会だ。教会ならば、隠された情報が何かしらあるだろう。
「よし。今日の予定は決まりだな」
 早くも第6次聖杯戦争は動き出した。そして俺たちもついに始動する。

 

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