「嬢ちゃんがオレを呼んだマスターか?」
  漆黒の闇の中、青の槍使いが赤の魔術師に問い掛ける。
「そうよ。これからよろしく、ランサー」
「まぁ、嬢ちゃんなら文句はないぜ。そこの坊主はオレに文句がありそうだがな」
  相手にすればからかわれる。ここは黙って置くのがベストだろう。
「そんなことよりも坊主、ヤツとの決着はついたのか」
 ランサーがいうヤツとは、おそらくアーチャーのことだろう。そう言えば、ランサーは俺とアーチャーの死闘の結果を知らないんだったな。
「ああ。俺がアイツを倒した」
「そいつはよかった。坊主と嬢ちゃんに蟠りがあると、こっちもやりにくいからな」
「ちょっと待ってランサー、アンタ前回の聖杯戦争の記憶があるの?」
 遠坂が慌てて会話に入ってきた。
「あるぜ」
「どういうことよ。アンタもセイバーみたいに輪を外れた英霊なわけ?」
「違うな。オレは普通の英霊だ。だが、なんつうか前回の聖杯戦争の記憶は残ってるけどな」
「なら、アンタはあのときのランサーと同一人物ってわけか」
「まぁ、そういうことだな」
「どういうことなの?」
 遠坂は相当混乱しているようだ。
「オレにはよく分からないけどな、一つ言えることはオレがまだ座に戻っていないってことだ」
 普通、特定の時代に召喚された英霊は、自分の意志云々とは関係なく、魂が一旦座に戻ることになっている。しかし、どうやらランサーの魂はこの時代に残っていたようだ。
「それは関係ないわ。ランサーの魂が座に戻ろうが戻るまいが、召喚されるランサーは座から呼び出されるはずだもの」
「普通だったら嬢ちゃんの言うとおりかもな。しかし嬢ちゃん、オレを呼ぶときの触媒が特殊だったろ?」
 ランサーを召喚する際に使った触媒は、俺が投影したゲイボルクだ。
「このゲイボルクにはおかしなところはないはずなんだけどな……」
 投影した際の感触は、最高の物だった。
「いや、小僧の投影は完璧だろうさ。オレが言いたいのは、そのゲイボルクが坊主の投影した物だからオレが呼ばれたってことだ」
「わからないな。俺はランサーの使ってたゲイボルクを、なるべく本物に近づけて投影したつもりなんだけど……」
「そうか。そういうことね」
 どうやら、遠坂が謎を解いたようだ。
「分かったのか?」
「ええ。おそらく原因は士郎の投影でしょうね」
「なんでさ?」
「理由は簡単よ。アンタは誰を思い浮かべてゲイボルクを投影した?」
「もちろんランサーだけど……」
「そのランサーって、アンタが二度殺されそうになって、キャスター達を倒す際にわたしたちが協力関係を結んだランサーのことよね」
「ああ。俺が思い浮かべたゲイボルクの持ち主はそのランサーの間違いないけど……」
「ランサー、貴方もそのランサーで間違いないわね」
「そういうことだ。嬢ちゃん達が召喚したのは、英霊としてのオレそのものではなく、第5次聖杯戦争に参加したオレってわけだ」
 なるほど、それなら納得がいく。疑問も解決したところでと一言呟いてから、ランサーは次の言葉を放った。
「ともかくだ。嬢ちゃんならマスターとして不足はない。オレが存在する限り、嬢ちゃんのサーヴァントとしてこの聖杯戦争を戦い抜くことを誓うぜ」
「ええ。わたしのほうからもお願いするわ」
「よし。契約は完了した。あとの細かいことはいらないだろ」
「そうね。士郎もそれでいい?」
「……………」
 黙ってる俺を見て、ランサーは笑い出した。
「おもしれえな坊主。安心しろよ。オレは嬢ちゃんに手を出したりしねえよ」
 ……やっぱりコイツ、気にくわない。
「オマエさんらの仲を壊すとしたら、オレじゃなくそこのセイバーを警戒すべきなんじゃないか?」
「どういう意味です、ランサー!!」
 突然話を振られ、セイバーは怒り出した。
「貴様は、そこの坊主のことが好きだろ?」
「なっ!!………シロウはマスターであって、決してそのような感情は抱いていない」
「アンタらね。わたしはセイバーが士郎のことが好きでもかまわないわよ。というか、そんなこととっくに気づいてたし。それに、いくらセイバーとはいえ士郎は渡さないから」
 さりげなく遠坂は俺の脳天を突き破る発言をしてくれやがった。
「ホントおもしれえなオマエらは。こりゃ、退屈しないかもな」
 実に満足げな表情のランサーが、俺たちを見つめていた。 

 

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