そこは見覚えのある風景だった。
「ここに来るのも2ヶ月ぶりか」
 一面の荒野に、無数に刺さる名剣の数々。燃えさかる炎と空間に回る歯車。
「俺の世界なんだよな」
 衛宮士郎の心象世界。魔術師はこの世界のことを固有結界と呼ぶ。魔術の中でも大禁呪であるとされ、協会に見つかれば間違いなく封印指定を受けるほどの大魔術である。
「固有結界か」
 俺は自身が固有結界を有していることに第5次聖杯戦争を通して気づいた。その戦いでアーチャーとして現界した英霊エミヤシロウ。ヤツとの戦いを通して、俺はこの心象世界を理解し、足を踏み入れた。
《なぜ貴様はここにいる》
 荒野の先に一人の男の姿があった。白髪に茶色の肌をして赤い外套を纏った長身の男。
「お前が呼んだんじゃないのか?」
 衛宮士郎の未来の姿、英霊エミヤシロウ。
《知らないな。貴様が勝手に来たのであろう。そもそも、オレが貴様に自分から会いに来るはずがなかろうが。今も理想を貫き、偽善を続けている貴様など目障りにもほどがある》
 相変わらず、会うだけで腑が煮えくり返るほどムカツク野郎だ。
「俺も自分から来たわけではない。迷い込んだだけだ」
《はっ。もし、貴様が自分から来たなどと言えば、オレは今すぐ貴様を殺すだろうさ》
 そう言うとヤツは俺に背を向け、歩き出す。

《理想を抱くのならば、対岸まで泳ぎ切って見せろ》

 ヤツはそれだけを言い残し、立ち去った。
「言われなくてもわかってるさ。お前が叶えられずにあきらめた夢は、俺と遠坂が必ず叶えてみせる。たとえ偽善だと罵られようとも、俺は自分の理想を貫いてみせるさ」
 強い決意を胸に、俺は自身の世界を後にした。そして、遠坂のいる現実の世界で第6次聖杯戦争二日目の朝を迎えた。

 

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