「遠坂、後は何をすればいい?」
 俺とセイバーは、半ば脅迫され、遠坂の召喚準備の手伝いをしている。まぁ、自業自得なわけだが………
「そうね。こんなもんでいいわ。ありがとう。……あっ、もう一つだけお願いしていい?」
「ん?なんだ?」
「強化って、剣以外にもできるわよね?」
「ああ。得意ではないけど、最近は失敗することも少なくなってきてると思うぞ」
「そう。それなら、強化をお願いしていい?」
 遠坂、やけに殊勝だな。
「いいぞ。それで、何に強化をかければいいんだ?」
 俺がそういうと、遠坂は急に顔を真っ赤にして、消え入るような声で呟いた。
「……スカート
 今、俺の理性を奪いかねない単語を聞いたような……
「はい?」
「……………」
 とりあえず、聞き直してみよう。さっき聞こえたのは、何かの間違いだろうから。
「もう一回言ってくれるか?」
「スカート」
「なんでさ?」
 ただいま、俺の脳は真っ白です。
「だから、スカートを強化してって言ってるの。召喚中に捲れたら嫌でしょ。今日わたし、ブルマとか履いてないし」
「いや、だからといって強化は……」
「なによ。別にスカートを強化するぐらい恥ずかしいことなんて何もないじゃない」
 確かに、遠坂とは既にそれなりの関係を築いているわけだが……
「いいのか?」
「いいのよ。早くやってちょうだい!!」
 むっ。このまま俺が躊躇してると、遠坂にガンドでも撃たれかねない。
「わかったよ」
 意を決して、俺は遠坂のスカートに手を伸ばした。
「きゃっ!!……ちょっと、何するのよ!!」
「何するって、スカートに強化しろって言ったのは遠坂じゃないか」
「確かにそう言ったわよ。だけど何?この怪しい手は」
「手って、スカートに触れなきゃ強化できないだろうが」
「なっ。強化ぐらい物に触れずにやりなさいよ」
 それは無理な話だ。
「俺にはそんなことできない。そこまで言うんだったら、自分でやればいいじゃないか。遠坂だって強化ぐらい使えるだろ」
「嫌よ。確かにやってやれないわけじゃないけど……」
「なんでさ?」
「別に、召喚中にアンタの魔力を感じていたいって思ってもいいじゃない!!」
 凄い剣幕で、遠坂はそう叫んだ。
「えっと、その気持ちは実に……なんというか、嬉しいんだが……」
 遠坂は我に返ったのか、顔を赤らめ、そっぽを向いて言った。
「とにかく、士郎に強化をしてほしいのよ」
 遠坂にそんな声でそんなことを言われてしまっては、断れる男子はこの世にはいないと思う。
「わかったよ。それじゃあ、俺のズボンを取ってくるから、それを履いてスカートを脱いでくれ」
 ………というか、
「なぁ、遠坂がズボンを履けばいいんじゃないのか?」
 遠坂はポカンとしている。
「どうなんだ?」
「……嫌よ。それだと、調子が狂うわ」
「なんだよ、それ」
「もう、わかったわよ。触っていいわよ。わたしのスカートを触ってもいいから、早く強化をかけなさいよ」
 それは飛躍しすぎてないか。
「ちょっと待った。それはいくらなんでも違うだろ」
「何も違わないわよ。ほら、早くしなさい」
 触ってもいいと言われると、なんだか触り辛い。
「……………」
「さっきはニヤニヤしながら触ろうとしてたくせに」
「なっ。そんなことないぞ。遠坂のスカートを触るくらい今更なんだっていうんだ」
「なんかそれはそれで腹が立つわね。ほら、いいから早くしなさい」
「わかった。………やるぞ」
 そして俺は恐る恐る、遠坂のスカートに手を伸ばした。遠坂は抵抗しなかった。
「「……………」」
 俺たちはしばらくの間、お互いに見つめ合っていた。突如、背後から殺気を感じ振り返った。
「シロウ、凛、その格好はなんですか?」
 見ると、武装をしたセイバーが剣を構えて立っていた。
「貴方がたは、いったい何をしているのですか」
 そこには遠坂のスカートを触りながら固まっている俺の姿があった。
「強化の練習だ」「強化の練習よ」
 俺たちは開き直っていた。
「言い訳は聞きません!!」
 瞬間、俺たちは神々しいまでに眩い光に包まれた。

 

前へ 戻る 次へ

inserted by FC2 system