昼食を食べ終わり、遠坂の話を聞くべく茶と紅茶を用意して居間に腰を下ろした。
「話は纏まったよな、遠坂」
「ええ。事実かどうかは分からないけど、信憑性が高い話にはなったわ」
「話してくれるか?」
 少しの間をおいてから、遠坂は説明をはじめた。
「大聖杯の役割には、マスターの選定とサーヴァント召喚用のマナの収集があることは話したわよね。後者の方なんだけど、通常サーヴァント召喚に必要なマナを集めるには60年の年月がかかるのよ」
 サーヴァント一体を召喚するだけでも莫大なマナを集める必要がある。60年というのは妥当な数字だろう。
「それにもかかわらず、第4次聖杯戦争と第5次聖杯戦争の間隔は10年しかなかった。これはどうしてだと思う?」
 60年かかるものが10年でできたしまうとなると……
「なんらかの要因、例えばアンリ・マユが原因で周期が早まったとか……」
「ええ。わたしもはじめはそう考えていたわ。でも、それだと前回と今回の2ヶ月という周期がどうしても説明できないのよ。いくらアンリ・マユが大聖杯のマナ収集能力を向上させてるといっても、2ヶ月でサーヴァント7体分のマナを集めるなんて不可能なのよ」
 なるほどな。確かに10年だったら可能性はあるかもしれないが、2ヶ月はさすがに無理だよな。
「それなら、どうやって集めているんだ?」
「そうね。じゃあ、それを説明するために簡単な問題を出すわ。通常の聖杯戦争の周期が60年だとすると、大聖杯が1体分のマナを集めるのに何年くらいかかるでしょう?」
 60年でサーヴァント7体分のマナを集めるわけだから……
「だいたい8年と半年ってところか?」
「正解。それなら、第5次聖杯戦争をはじめるにあたって、大聖杯が集めたマナの総量はさっきと同じように考えるとサーヴァント何体分になるでしょう?」
 1体が8年と半年かかるわけだから……
「1体分とちょっとってところか」
「そういうこと。それじゃあ、今回は?」
「まぁ、1体分も集めてないよな」
「そう、それがわたしの出した推論を導き出すためのヒントよ。どう、何かに気づいた?」
 遠坂が言っていたことを纏めると、通常大聖杯がマナを集める周期は60年で、それを1体あたりに換算すると8年と半年ほどになる。第4次聖杯戦争と第5次聖杯戦争の間隔は10年だったため、先ほどの計算だとサーヴァント1体とちょっと分しかマナを集めていることにはならない。それが第5次と今回とだと、1体分にも満たないか。……これだけじゃ、遠坂が何を言いたいのか分からないな。
「悪い。まだ、わからない。もう少しヒントをくれないか」
「そうね。なら、とっておきの大ヒントをあげるわ」
「……遠坂にしては、やけに優しいな」
「アンタね。そうでもしなきゃ、日が暮れるでしょ」
 ぐっ……さすがに今のは堪える。
「落ち込んでるんじゃないわよ。それなら、次のヒントで気づきなさい」
「よし。望むところだ」
「わたしも詳しいことは知らないんだけど、第1次から第3次聖杯戦争までは遠坂・マキリ・アインツベルンの三者が一歩も譲らずに長期化して、聖杯の召喚は試みたらしいんだけど結局聖杯が発動しないまま終わったらしいの。でも、第4次聖杯戦争は違った。その違いは分かるでしょ」
「セイバーがマスターの命令で聖杯を破壊した」
「そう。そして、その際に言峰綺礼のサーヴァントとして現界していたギルガメシュは、聖杯を浴びて現世への受肉を果たした」
 その10年後、第5次聖杯戦争が勃発することとなる。
「……そうか!!第4次と第5次聖杯戦争の周期は10年。大聖杯が10年分のマナを集めたということは、逆に大聖杯には10年分のマナが不足していたと考えることができる」
「そうよ。その不足分っていうのが金ぴかだと考えれば、全ての辻褄が合うわ」
「ちょっと待て、遠坂。確かに10年分のマナがギルガメシュのマナ量かもしれないことは分かる。だけど、それなら大聖杯は残りの50年分のマナをどうやって集めたっていうんだ?」
「さっき士郎は、第4次聖杯戦争とそれまでの聖杯戦争の違いは、セイバーが聖杯を壊したことだって言ったわよね」
「ああ」
「つまりそれが答えなの。セイバーが壊した聖杯の中には、5体分のサーヴァントの魂が保管されていた。それをセイバーが破壊した。すると、聖杯の中に集まっていたマナとセイバーの分のマナは行き場を失った。そのため、聖杯が起動により聖杯とパスが繋がっていた大聖杯に行き場を失ったマナが一斉に流れ込んだ。それがギルガメシュ分のマナ量を除いた50年分のマナに相等するってわけ」
 そして、大聖杯は不足分である10年分のマナを集めるだけで済んだってことか。
「なるほどな。だけど、それがたまたまそう説明できるって可能性はないのか」
「ええ。今の説はあくまでわたしの推論だから、絶対に正しいという保証はないわ。でも、前回と今回の間隔を考えると余計に信憑性が高くなると思わない?」
 前回の聖杯戦争は第4次聖杯戦争と同様、セイバーが聖杯を破壊することで決着している。さらに、第4次聖杯戦争後も尚現界し続けたギルガメシュも俺との戦いの後、黒い孔に飲み込まれ消滅した。
「セイバーが聖杯を壊したことによってサーヴァント7体分のマナが行き場を失ったにもかかわらず、加えてギルガメシュのマナも大聖杯に流れ込んだってことか。ゆえに、大聖杯が貯蔵したマナはサーヴァント8体分。つまり、その時点でいつでも聖杯戦争ができる準備は整ったというわけか」
「そういうこと。そして、この推論が正しかったとしたら事態は一層深刻になってくるわ」
「聖杯を破壊しても行き場を失ったマナは大聖杯に戻ってしまう。そして、聖杯はアンリ・マユに汚されている」
「そう。だからわたしたちが大聖杯を壊すか、聖杯が願望機としての役割を果たすかしない限り、延々と聖杯戦争は続くことになる。だけど、聖杯を壊せば溜まっていたマナが大聖杯に全て戻ってしまうから聖杯を壊すわけにもいかない。しかし、誰かが聖杯を完全に発動させてしまえば、アンリ・マユは復活し、人類滅亡の危機に瀕するかも知れない」
「……責任重大だな」
「……ええ」
 ただそれではっきりしたわけだ。
「これで俺たちがこの聖杯戦争を黙って見守るわけにもいかなくなったってわけだ」
「そういうことになるわね」
「なら、さっきも言ったように俺たちは全力を出し切れるように今は万全の準備を整えるのみだ」
「いい心構えね。それでこそわたしのパートナーにふさわしいわ」
「ああ。とにかく聖杯戦争が始まるにあたって必要なことは今日中に済ましちまったほうがいいな」
「ええ。そうと決まればさっそくはじめましょう」
「そうだな。でもまぁその前に、お茶のおかわりをもってくるか」
「あっ、わたしのもお願い」

 こうして二人の第6次聖杯戦争は幕をあけたのだった。

 

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