お昼というの名の天国と地獄を一気に味わった。現在は体育祭の午後。
まったく、あれはなんなのだろうか……。
凛に食べさせるのはいいのだが、周りの視線というか、特に桜の視線がそれこそバーサーカーだった。
その桜はというと、次の種目である部活動演技のためにすでにここには居なかった。そういえば、集合場所に向かう美綴と桜の顔が笑っていたのはなんだっただろうか?
「それでは衛宮、クラス対抗の時に」
一成はそのまま走って次の午後の部での生徒会の仕事に向かっていった。確か、あいつはその前に二人三脚があったよな。まあいいか
『それでは続きまして、各部による演技に入ります。それでは部長の皆さんこちらに』
「そろそろみたいだな、凛」
「……どこかしら、桜?もしかして……まだ……だけど、それならまだこっちに」
「……凛……」
完全に自分の世界に入っている凛。自分の妹の晴れ姿を一瞬でも見逃すまいと必死になっていることは、その真剣な顔からひしひしと伝わってくる。
「凛」
「え、あ、ああ士郎何?」
「まったくさっきから呼んでいたのにまったくきづかないとは。それと桜は最後だぞ」
「え、そ、そうなの士郎!?」
俺は持っているしおりをだして、プログラムのところを見せた。
「これだ、最後が応援団で、その前が弓道部だぞ。凛」
「士郎、そういうのはさきに言いなさいよもう。桜の姿を真剣に追っちゃったじゃない、もう!だけど、部活動っていうなら士郎はでなくていいの?」
確かに顧問をしてはいるが、俺が必要な場合はあの二人なら俺のことも呼ぶだろうから、大丈夫だと俺は思っている。
「大丈夫だと思うぞ。大体それならさっき俺も呼ばれているはずだし、桜と美綴に」
「それもそうね。だけどあの笑顔はなにかしら?」
やはり凛も気になったのだろうが、しかし俺らはそれを知るすべはなかった。
Side 一成
現在、問題の資料をもう一度見ていた。それは今から行われる部活動の演技に関するものだ。
「本当にやるのか、美綴そして間桐」
「ふん、僕の案じゃないさ。ただ桜がどうしてもっていうからね。兄としては妹のわがままぐらいは聞いてやらないとね。それに今は、桜が部長だし」
「そういうことだよ生徒会長。あの子だって色々と思うことがあるんだからさ、今回ぐらいは見逃してあげて」
「ふむ……まあすでに申請も終わっている。あとはあやつらが乗ってくるかどうかだ」
「ああ、それなら心配ないね。遠坂の挑発させたら右に出るものはいないと思うよ、うちの部長は」
「失礼します!美綴先輩、部長が呼んでいましたよ」
会議中に弓道部であろう姿の子が入ってきた。ふむ、もうすでに部活別演技も真ん中の部活が終わったようだ。
「そうか、それじゃあすまないが生徒会長。あとは頼んだぞ」
「僕の妹の晴れ舞台だ、失敗するなよ生徒会長」
「言われなくても分かっている。それでは美綴、二人三脚で」
「ああ」
そして俺は仕事に戻る。仕事と言っても今は生徒の監視が主なことであるがな。しかし衛宮も大変だな。だが、俺も見て見たいのだよ。噂に違わぬ静寂の射を。
Side out
順調に部活の紹介と演技が終わり、次は弓道部であった。まずは桜が前に立ち部活動の紹介に
「こんにちは、わたしは弓道部の部長をさせてもらっています間桐桜です。まずは私たちの射を見てもらいたいと思います」
そして出てきたのは練習場と同じ的、そして撃つのは美綴に慎二だ。三年生での二人はやはり腕前からいえば上なのだろう。
「ねぇ、士郎は撃たないの?」
隣で見ている凛がからかいながらそんなことを言う。
「人前で撃つなって言ったのは、凛のほうじゃないか」
「あら、そうだったかしら?まあもし、撃つことがあれば……わたしの許可を取りなさいよ、ちゃんと側にいてあげるから」
「俺は子供かよ」
「違うわ、彼氏♪」
顔を紅くしながら言わないでくれ、俺のほうが恥ずかしいんだから。
校庭に目を移すと慎二と美綴がまさに矢を放ったところだった。的に当たる矢。やはり三年生でもある二人は非常にうまい。
そして少し時間が経ち桜がマイクを持った。
「三年生のみなさんはこれが最後の部活動になるので、みなさん大きな拍手を」
そして拍手と言う名の激励が起きる。これで終わりと思っていたのだがまだあるようだ。次はなんと元部長の美綴がマイクを持った。
「えっと、なんで私がマイクを持っているか、なんて疑問に思ったものもいるかも知れないが。これにはちょっとしたわけがある、部長がまだ弓を構えていないじゃないか。ここはやはり部長が、そして……顧問が見せるべきだろう」
「……やられた」
マイク越しの言葉に凛が最初に言った言葉だ。そして集まるのは俺への視線。
「…凛、なんで皆俺が弓道部の顧問だって知ってるんだ?」
「あんたね……。最近のあんたの有名率なんてハンパないのよ。まあ拍車をかけたのはわたしだけど」
「おい、そこのカップル。ご指名だぞ」
ああ、笑っている美綴の顔が見える。実際に見える……ここはしょうがないのだろうか?その時桜がこっちに来て、こう言った
「あら、姉さん。もしかして見せるのがいやなのですか?先輩の射を見てさらに敵が増えるのが怖いのですか……フフフフ」
それだけを俺らだけに聴こえるように言うとそのまま戻って行った、不味い。
「ふふふ、誰にモノを言っているのよ、桜」
凛がゼウスの顔をなり、そして
「いいわよ!士郎、行きなさい!行ってあの笑っている二人を見返しなさい」
そういうのは確かにカッコイイのだが……。
「凛、ボリュームを考えてくれ」
今の声は間違いなく、全校生徒に言ったようなものだぞ。後ろから聞こえてくるのは笑い声。
「くくくく、ああ腹が痛い。そう思わないか衛宮」
「慎二か。どうした?」
「何、僕は今回特使という感じだよ。まあ妹のわがままを聞いてやっただけさ。ほら、これ、うちの担任から預かってきていたんだよ」
そこには俺の弓、そして最近新調した袴だった。まさかこの作戦に藤ねえがかんでいたとは……。本部の職員室を見ると、そこには一成もいた。一成もか、これは連合だな。
「何、呆けているんだ衛宮。さっさとしろよ、この僕を運び屋に使ったのは大きいぞ」
そして俺はそのまま慎二に連れられて着替え、そして校庭の真ん中に立たされた。見るとがっちりと俺の腕を掴んだ桜が隣にいた。
「ふふ、先輩。本気でやってくださいね」
「当たり前だ。凛が見ているし、それに桜との勝負に手を抜く気はないよ」
最初に撃つのは桜からだ。
Side 凛
まったくやってくれるじゃないの、あの四人目。だけどこれでさらに、士郎がモテたらどうしようかしら?
まあわたしのものだから大丈夫、だいじょうぶよわたし。
「それでは二人の射を始めます」
綾子の言葉で、構えるのは桜。
さすがは桜の構え。弓道部の部長だけあってキレがあり、そして目がいいわね。流石はわたしの妹。
桜が撃ち終わる……ここからが問題。
士郎は最後にわたしの顔を見た。だからわたしは口パクでこう言った
『やりなさい、あなたの思い通りに。見せなさい、わたしにかっこいい姿をね』
士郎はわたしの口パクなんて簡単に読んで、笑って、最後に一瞬だけこっちに合図をくれた。
そして構える…そこで起こるのは何も無いのだ。
全ての時が止まったかのように思える。
それは全生徒が静まった瞬間でもあった。
Side out
軋む弦の音。久しく構えていない感覚。
だけどわかる、当たると
“トスっ”
全ての矢を撃ち終えると、俺は安心していた。
まるであの戦いの後のような。
緊張感からの開放のような。
「……ぱい」
ふぅ、しかしいやな汗だ だけどアーチャー俺はお前じゃないさ
「……せ…ぱい」
俺はお前みたいに正義だけじゃない、大切な……
「先輩!」
「ん!あ、ああすまない桜。なんだ?」
「お見事でした、ありがとうございます」
桜の言葉で、そういえばここは校庭だったことを思い出した。
俺達はすぐに退場してあとは応援団に任せることにした。
「先輩、ありがとうございました!」
桜が一礼をする、俺もそれに答える。
「ああこっちもいい経験が出来たよ」
「それよりも衛宮、行きたいのなら行けよ。あの女のところに」
慎二がそう言うので
「すまない、それじゃあな」
俺は駆け出した。
前へ 次へ
戻る