さて、今日の晩飯は豪華というわけではないが、実に賑やかだ。なんてったって今回は一成がいるわけであり、さっきのエプロンの件といい大変になることは目に見えている。そんな俺の不安を他所に……
「士郎〜お姉さんはお腹ペコペコだよ〜はやく、はやく〜」
 虎が唸っていた。俺は既に出来ているマーボーを居間に運び出した。
「藤ねえ、一応この中では最年長なんだからもう少ししっかりしてくれ。すまんな一成」
「なに、こちらが邪魔しているわけだ、構わん。それにしてもこれは誰が作っ…「私よ、柳桐くん?」……き、貴様がこれを!!」
 なにやら驚いている様子で一成は言う。凛は既に平然と居間に座っている。二人で料理をしていると美綴と桜の陰口がまぁ怖くて怖くて……だから俺は凛に頼んだ。しかしこれが逆効果で、今回は凛の宿敵、一成がいたのだ。
「あらわたし、これでも女の子なんですけど柳桐くん?」
 そしてアングリと口をあける一成。
 凛も凛で好戦的だから困るのはいつも俺である。
「って、藤ねえ!だからごろごろしてない」
「あ、先輩、手伝います」
 桜が立ち上がる、美綴との会話は終わったようだ。
「そうかそれならすまんが飯をお願いできるか。俺はそのほかの物があるから」
「はい」
 一通りの料理が並んだ。今日は凛が作ったため中心なのは中華。まず麻婆豆腐、それと卵スープ、あとはご飯。しかし、大皿のマーボーと凛特製のマーボーは別にある、その理由は……
「…姉さん、それを良く食べられますね…」
 そう、簡単に言うと俺でも食べられないほどの激辛、見た目ですらマグマのようだ。
 いただきますをして冬木の虎の暴走がはじまると、しばらく美綴と一成は呆然とその様子を見ていたのだが、落ち着いてきたところで一成が口を開いた。
「されど衛宮、お前はあの生徒会が出してしまったあの種目に良く出てくれたな」
「は?生徒会が出した物?」
「うむ、あのお姫様だっこリレーの事だ」
 あ〜、あれそういえば今年から開始した生徒会の種目のものだったんだ。…まぁそうだろうな。
「な、なんですって!!先輩それは本当ですか!」
 桜が立ち上がる。
「さ、桜、落ち着いてくれ。てか座ってくれるか、さすがに食事中だ」
 それに気付いた桜は顔を赤くしして座り、ご飯を一口食べてもう一度疑問を口にした。
「それで本当なんですか先輩?」
 桜は天使の笑顔でそう聞いてきたが、それに答えたのは凛だった。
「ええそうよ、桜。わたしがいるのですもの」
 そう言うとレンゲの色が完全に赤く染めるマーボーを凛がまた口に入れる。
「そうですか…そうなんですね」
「まあまあ桜、あたし的にもうちのクラスであの競技が出来るのはこいつらぐらいだと思うよ。それに忘れているのか、例の競技」
 美綴がウインクで桜に合図を送る。
「あ、そうでしたね先輩!」
 なぜか桜は元気になり、そのままご飯となった。しかし
「一成、確認なんだかあれは生徒の応募の結果か?」
「あれか、あれはそうだ…ある意味お前のせいかも知れんな衛宮。」
「は、何を言っているんだ、一成?俺が生徒会に関わってはいないだろうが」
「あんたそれ本気で言っているの…」
 凛にすら呆れた顔をしていた。俺が何をした?
「あんたね、帰りが遅い時は大抵生徒会の手伝いやら、修理やらでしょ。まったくこっちの事も考えなさいよ」
「いや、それはしょうがないだろう。それに修理って言っても学校の備品なわけだし」
「お前ら、夫婦喧嘩なら後でやってくれ。あたしと桜はアップアップだ」
 その時美綴が入ってきたが。
「美綴先輩、それはもう遅いと思いますよ。わたしにも抗体が出来ていますし、それにこんな会話は日常茶飯事、今日の朝だってありましたし」
「あははは。まったくあんたらは、ホント…独り身に毒だよ!!」
 美綴はそう言うとご飯をかきこんだ。それと一成と言うと
「く、この料理はうまい。しかしこれはあの女が。ううううう」
 なんか唸りながらマーボーを食べていた。そして何故藤ねえが会話に入らないかというと。それは……
「がががががががががががががが」
 
 人とは思えないほどの速さでご飯を入れている、それもマーボー丼にして。そして口を開けば
「おかわりっ!」
 これである、現在で四杯目。そろそろ釜の飯も尽きそうだ。
「それにしても綾子、あんたが種目で二回もでるなんてどういう風の吹き回しよ?」
「あ、べ、別にいいだろう。」
 そういえば、美綴はたしか二人三脚を一成と一緒に出るのだったな
「まぁ俺的にもあの時の発言は正直助かったぞ美綴」
 そういう一成、確かにあの時は既に誰も出る気無かったからな。
「それにしてもあたしが意外に思うのは、衛宮が代表でリレーすることだね。あんたそういうこといつもしないだろう。いつも生徒会の手伝いや先生の手伝いだろう?」
「いや、美綴。あれはすでに強制の域だろう。慎二がああ言うからしょうがなく」
「ふふふ、そうなんですか先輩…………あのワカメ、先輩になにを迷惑をかけることを」
 なんか笑顔の桜……。最後の方が聞き取れなかったが。
「何言っているのさ。一成と慎二ときたら後は衛宮しかいない。それ意外の組み合わせなんてないだろうね」
「そうよね、そのメンバーなら士郎が入るべきでしょう。それに士郎の活躍するところ楽しみにしているから」
 そう言うと凛のあのマグマのようなマーボーは完食されていた。
「はぁ。了解だ、それにしてもなんで藤ねえはいつにも増して元気だったんだ?」
「それかそれは生徒会の方針で。優勝したクラスの担任には特別待遇が出るように計らったからだろう」
 すでに飯も食べ終わり緑茶を飲んでいる一成。
「お、どうだった一成、うちの飯は?」
「うむ、うまかったぞ衛宮…それと遠坂」
「ふふ、ありがとう柳桐くん」
「それにしてもあんたら既に夫婦と思っていたけどここまで間近で見ると嫌だね〜」
「そうですよね、美綴先輩。姉さん達はもう少し自重するべきですよね!!」
「あらあら、桜。わたしがこんなものと思っているの?」
 あの悪魔のような笑みで笑う遠坂。
 そして衛宮家の晩御飯は幕を閉じた。こうして第一回悪魔VS天使、姉妹の皿洗いが幕を上げたのだった。
 
  

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