さて、朝食の刻となった。
「兄さん!!お客さんなのですから、手伝ってください!」
「はぁ?僕が手伝い?」
 俺らが料理を作り終わってあとは運ぶだけとなった時、桜が居間でテレビを見ている慎二に声をかけた。
「兄さん?NA★NI★KA」
「あ、ああ、わかった、わわわわかった」
 最近、慎二は桜に頭が上がらなくなってきている。
「先輩は姉さんを呼びに行って来てください」
「ああ、わかった」
「あ、そうです。一言」
 俺がエプロンを取り、凛を起こしに行こうとして、居間から廊下に出るところの襖を開けたとき…
「十分以上かけたら、ワカッテイマスネ?」
「あ、アハハハハハハハハ」
 桜の恐ろしいまでの笑顔に見送られたのだった。
 ああ、最近黒い天使が怖くなってきてます。やはり姉妹なんですね……。
 そして、俺は俺の部屋に入った。
「おい、凛、起き…………ろ」
 そこには、一匹の蛇……じゃなかった。一匹の猫……でもなかった。凛が半裸で寝ていた。
「ふにゃ、ふひゃ〜」
「いやいや、さっき目が開いたよな、凛」
「ふにゃ〜」
 あれれ、さっき目が開いてたよな、もしかして寝ぼけてるのか?
 しかしこれはどうしたものか、最近のキス起こしも三回やっても起きない。さらには、深い方で起こそうと思ったら、起きるのはいいが……そのなんだ…あのトロ〜ンとした目で起きるのは辞めて欲しい……あれは凶器だ。
「おい、凛、起きてくれ」
 もしかして俺の枕が最近起きたら無くなっているのは、凛のせいか。そこには、今日行方不明になったはずの俺の枕があり、俺の寝ていた所に顔を埋めている凛の姿があった。思わず、ドキッとしてしまう。
「オソイデスヨ?」
 あははは、ある意味助かったかな、俺。
「あは〜、士郎だ〜」
 ま、まて、このくだりは………。
「しゅき〜」
 そして凛は、桜の目の前で俺に盛大に抱きつく。
「えへへ、士郎だ〜」
「あ、はいはい、凛、お、起きような」
 その、なんだ。俺の生命と書いて「いのち」と読むものが無くなる危機に瀕している気がする。
「姉さん、ナニヲシテイルンデスカ?」
 そして、俺の胸で蹲っている凛もいい加減起きてくれた。
「あ、あれ、なんで桜が?」
「そのなんだ、凛。俺らはまたその……だな……」
「姉さんも先輩も………不潔です!!」
 トラにも似た、黒い天使の咆哮が轟いた。

〜少々お待ちを〜
 
 結局、慎二と俺が二人がかりで桜の愚痴を居間で聞くことになった。そして凛が制服姿で居間に来て、朝飯がはじまった。
「まったく、確かに私は、認めました、はい、確かに認めましたよ。ですが、毎度毎度」
「はいはい、ごめんなさいね、桜。だってしょうがないでしょう、わたしは朝弱いんだから」
「先輩は早起きですよ。」
「士郎は、元がそうなのよ。まったくなんであんなに元気なのよ。大体毎晩………」
 おいおい、凛。さすがに今の言葉はまずいんじゃ……。
「毎晩なんですか?姉さん」
 ああ、出た。遠坂家の遺伝、うっかりスキル。
「別になんでもないわよ」
 凛、なんでそんなすまし顔が出来るんだ。
 一方、慎二が何故この会話に入らないかと言うと、理由は簡単だ。先日も似たような状況で、慎二が凛をからかったら……色々あって、その日の慎二は化石のように硬直していたとだけ言っておく。それにその時に、あの桜が「黙っていてください、ワカメ以下のワカメ」と言ったため、慎二は撃沈。その時の凛と桜の二人は阿修羅だった。
「まったく、いつのまに、ここは士郎ちゃんの愛の巣になったのよ、保護者としては心配だわ」
 どこから出てきたんだ、藤ねえ。
「う、うわっ!」
 まあ、初見の慎二はビックリするだろうな。最初は凛もビックリしていたな。
「それにしても、桜ちゃんがうちに通うようになって、その後は遠坂さん、さらには慎二君まで来るなんてね〜。まあお姉さん的には、うれしいんだけど、先生的には………」
「生徒に朝食を作ってもらってて教師とか名乗ってるのは笑えるね。藤村も皿運ぶの手伝えよ」
 その時慎二は、そう言ってしまった、そしてトラは………
「慎二君は、当分、士郎の家に入ること禁止。それから、今度の体育祭の草むしり当番」
「はぁ?意味がわからないね」
 藤ねぇと慎二が睨み合っている。
「慎二の言葉遣いは藤ねぇに対して失礼だけど、慎二の言ってることも一理あるぞ。藤ねぇもたまには食器を運ぶの手伝ってくれ」
「うっ、そうね、士郎の家に入ることは許してあげる。その代わり草むしりはやっておくこと」
「はぁ?何で僕が」
 まあ、そんな感じで朝は過ごした。藤ねえは学校に先に行き、俺らも家を出る時だった。
「先輩、鍵は」
「ああ、それならわたしが閉めたわよ桜」
 そして、俺らは歩き出した。
「なあ、衛宮。さっきの草むしりなんだか「兄さん」………なんでもない衛宮」
「わかった。手伝いはするけど、慎二もやらなきゃだめだぞ」
「だから、なんで僕が草むしりなんてやらなくちゃいけないんだ」
 慎二は几帳面で、神経質なまでに規則を守ろうとするヤツだから、文句はいいながらも草むしりはきっちりするだろう。
「そうですね。兄さんだけではなくて、姉さんも兄さんと草むしりをやってもらう必要がありますね」
「わたしは関係ないじゃない」
「朝の出来事を忘れたとは言わせませんよ、姉さん」
「……わかったわよ。やればいいんでしょ」
 凛も桜には頭が上がらなくなっている。
「先輩は兄さんと姉さんを手伝う必要はありません。私と一緒に監督してください」
「わ、分かった」
 かく言う俺も、桜には逆らえない。
「そう言えば、そろそろ体育祭なんですね。姉さんはなにかにでるんですか?」
「あ、そう言えばそんなのがあったわね、だけどうちのクラスって、そんなこと言っていたかしら?」
「藤ねえ、完全に忘れているな」
 俺はため息を一つした。
「まったく、あんなんで教師なんだから、笑えるな」
 慎二も呆れているが………。
「兄さんはなにか“出てしまう”予定があるんですか?」
 出てしまうってなんだ、出てしまうって桜。
「桜、そんな言わなくてもわかることをわざわざ僕に言わせるのかい。まあいいや特別に言ってやろう。僕はな「ねえ、先輩は何に出るんですか?」「あ、そうね、士郎は何に出るつもりなの?」………ええい、僕の話を聞け!!」
 そして、その言葉に全員が黙り
「いいか、僕は、クラス対抗リレーに出るんだ!!」
 声、高らかに宣言するが………
「それで、士郎は」「先輩は」
 スルーする、この姉妹。さすがに慎二が可哀想に思えてきた。そんなこんなで学校の門の前に来た。
「それでは先輩、姉さん、ついでに兄さん」
 そして、下駄箱で別れた桜、しかし入れ替えのように後ろから……
「お、夫婦の登場か?」
「あらら。美綴さん、おはようございます。それに登場したのは貴方の方かと」
 完全に猫を被っている、凛に早変わり。そして俺らは、クラスに向かった。
 
 この日、俺は大変な目に会う事も知らず。
  

前へ 次へ

戻る

web拍手 by FC2

 

inserted by FC2 system