Side Rin
 
 わたしは魔術師として、ずっと一人でやってきた……そうだったはずだ。けれど、あのバカはわたしに心の贅肉をつけてきた。そして、いつの間にかわたしはそれを幸せだと思い始めた。今思うと、もう士郎がいない生活は想像できない。士郎という存在は、勝手にわたしの中に入り、勝手にわたしの中心に来た。だからわたしは士郎に魔術を教授する代わりに過酷な等価交換を強いたのだ。それは
 
わたしの傍に居させること。
 
だって士郎はわたしの物なんだから。
これは、わたし達がロンドンにたつ前のお話。そうわたし達がまだ、学生の頃の体育祭のお話。
 
 
Side out
 
 
 今日も、いつもの朝を迎えた衛宮邸。
「ふ、ふわ〜」
 俺こと、衛宮士郎は今日も早起きであった。しかし……
「むにゅ〜、しろう〜」
 俺の師匠で俺の恋人こと、遠坂凛は現在俺の隣で爆睡中。一学期の中間テストの件以来、結構積極的になった凛なのだが……その、なんだ。毎日一緒に寝るのはちょっと……。さておき、俺はいつのように凛を起こさないように起きて、その足で道場に向かう。秋に近づいたこの時期だが、今年の夏が異常なほど暑かったせいか最近は朝の運動が心地いい。そのため、たまに朝食が遅れ、桜に怒られたり、藤ねえに学校で仕返しされたりしたのだが、まあしょうがないか。そして俺はいつのも木刀を投影し、
「トレースオン」
 少し強化した木刀をひたすら振り始めた。
 何度か振ると、今度はイメージトレーニング。敵として対峙するのはセイバー、そしてアーチャー。相手の攻撃を想像し防いだところで打ち込んでいく。最初、凛が無人の敵と戦う俺を見て、俺が魔術で幻想を見せられていると勘違いして、いきなりガンドを当てられ、抱きつかれて、なんだか散々だった覚えがある。しかしそれほど俺は二人との戦いにのめり込んでたわけで、ある意味俺の極致に達していたのだろう。俺は俺の求める俺を知っている。脳裏に浮かぶは、世界に生涯を捧げた赤い弓兵の姿。手本があるなら俺は自分の理想に向かって一直線に進むことができる。いや俺はアイツ以上になれるんじゃないか……、そう思いこの鍛錬を続けている。自分を守るため、正義の味方になるため、そして凛を守るために。
「さて、今日はここまでだな」
 一汗掻いたぐらいで、今日の鍛錬は終了。
「シャワー、浴びよう」
 そして、風呂に直行。それから数十分後、桜が登場。
「先輩、おはようございます」
「ああ、おはよう桜って、今日は慎二もなのか」
「僕がいなくて寂しいっていうから来てやったよ、衛宮」
 そう、慎二だ。先の聖杯戦争で、色々とやらかし、結局聖杯の成れの果てとなった慎二。凛に救ってもらい、それ以後、慎二は入院していた。そして夏休み直前に退院し俺たちに前に姿を現した。そして、その時の放課後……。

 
〜終業式での出来事〜

 
 終業式が終わり、残すは藤ねえのHRだけとなった時、慎二が学校に来た。最初は俺も遠坂も慎二を警戒していた。慎二は他の生徒達と話していたが、藤ねえが来てHRを終わらせて解散している時に、慎二は俺と遠坂の前を通過し、
「話したいことがあるから、屋上に来いよ」
 そんな言葉を残していった。怪しくも感じたが慎二の声がいつになく真剣だったので、俺と凛は屋上に向かうことにした。慎二が待つ屋上に着き、凛が人避けの結界を張って、話が始まった。

「間桐君、元気そうね」
 遠坂のジャブから話がはじまった。
「君達の“せい”でね」
 聞きなれた慎二の嫌味。しかし、どことなく違和感を覚えた。
「それで話は何だ、慎二?」
 俺が聞いたとき、人避けをしてあるはずの屋上のドアが開いた。そして入って来たのは
「先輩、遠坂先輩、兄さん。遅くなりました」
 そう、そこに居たのは桜だった。
「ちょっと遠坂に大事な話があってね」
 あれれ、なんだかホント、聖杯と一緒に毒気が無くなってくれてはいないのか。
「僕の権限で、遠坂・間桐両家の契約は解消するから」
 言葉の意味がよく分からなかった、しかし凛は慎二の言葉に驚いているようで……。
「な、なに、言っているのよ。あなたそれがどういう意味か……」
「そんなの解ってるさ。でもあのジジイは居ない今、僕と桜が兄妹ごっこを続ける必要もないだろう?いちいち桜に外出許可を出すのも面倒だしね。遠坂という桜と血の繋がった姉がいるのに僕が桜の兄を演じ続けるのもバカバカしいだけだし」
 慎二の独白。最初から、俺は耳を疑った。そう桜と凛が姉妹だって……。
「なあ、凛、桜それは」
「ええ、本当よ、士郎。ホントはもう少し時期を置いて話すつもりだったんだけど」
「はい、先輩。私の旧姓は遠坂桜、正真正銘“姉さんの妹”なんです」
 そして、桜が事の経過を話してくれた。凛を遠坂家の跡継ぎに選んだ凛の父親が桜を遠坂家から間桐家に養子にだし、以後桜は間桐桜として魔術の教育をさせられたこと。そして自分はすでに穢れていると呟いていた。慎二は終始黙って、下を向いていた。
「もう、大丈夫よ、大丈夫。だから桜、もういいの」
 桜が話し終えたとき凛はそう言って、桜を優しく抱きしめた。
 
 そして、黙っていた慎二が口を開いた。
「僕を殴ればいいじゃないか。一発ぐらいなら許してやるよ、衛宮」
 言葉とは裏腹に慎二の声は震えていた。慎二が人前で泣くのを始めてみた。そして俺は一発殴り、そして自分の拳を壁に打ちつけた。
「え、し、士郎?」
「せ、先輩。血が」
 二人は俺が慎二を殴り、さらに壁を殴ったのに、驚いていた。
「ごめんな桜、気付いてやれなくて、ホントすまん」
 俺の無力を痛烈に感じた、“家族”すら守れない自分に。
 いいんです、先輩。私はこれでも幸せなんです。先輩に、姉さん、兄さん、そして藤村先生。皆さんとの生活が暖かくて楽しいんです」
「ふふ、それでこそわたしと血の繋がった妹ね」
 そして、桜がこのまま間桐の家に残るか、それとも遠坂家に戻るかの議論になった。そして結論は……。
「私は間桐の娘ですから、」
 桜はそう言って戸籍上は間桐桜として生活することになった。凛は少し寂しそうであった、しかし……
「でも、もし私が先輩と結婚するのなら、遠坂先輩は義姉さんになるんですよね。だからこれからは遠坂先輩のことは姉さんとも呼ぶようにしますね」
 その無邪気な笑顔は凛そっくりだった。
「そうね、桜」
 そして、その日から桜はもっと明るく、慎二はもっとやさしくなった。まるで夕日の如く映る、二人の兄妹と、二人の姉妹が、神秘的だった。
 
 
〜回想終了〜
 
 
「それでは兄さんは居間にでも居てください。」
 そして、なんだか最近慎二がどんどん我が家に定着してきたのは気のせいか。
「それでは先輩、朝ご飯作りましょう」
「あ、ああ。そうだな」
 そして、いつものように衛宮邸の朝は始まった。


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