【5月28日〜午前+午後〜】

 

 教室は驚愕で出来ていた……。

「お〜い。どうしたの、みんな?さっ、ホームルーム始めるよ」
 藤ねぇが先生みたいなことを言っている。明日は槍が降るな……。

 そして硬直していた生徒たちが意識を取りもどし、ある者は俺を睨み、ある者は俺を尊敬の眼差しで見つめている……

「どうしたの?ほらほら今日がテスト最終日なんだから早くホームルームやるよ」

 本当に今日の藤ねぇは少しおかしい。しかし今は大助かりしているからこれでいいと思った。だがやはり、冬木の虎はそんな甘くなかった。

 

Side Taiga


 さてさて、今日はテスト最終日だ。久々に士郎のご飯が食べれる。昨日は採点でいけなかったし、今日は豪勢にしてもらおう。

「さてさて、私のクラスはっと」

 そう言いながら陸上部の三人組が入った後に入ろうとしたら「あ、昨日路上キスいていたバカップルだ」という蒔時さんの声がした。そしてその視線の先には士郎と遠坂さんがいた。あら、あらあらあらこの前怒ったばっかなのにまたそんなことをしでかしたのか。これは少しオシヨキが必要みたいね。

 そして私は何事もなかったかのように教室に入っていった。
 

Side out


 ホームルームは意外と長引いた。藤ねぇにしては珍しい。本当にどうしたんだか。しかし、ホームルームの後すぐに試験監督の先生が来たため俺は命を落とさずにすんだ。

 そしてテストも無事に終了した、
「終わった」
 それは人生の終わりと同じ……。男子生徒が俺に近づき、掴みかかろうと迫ってくる。その瞬間……。

「ホームルームするよ」
 神の声、いや虎の声がした。
「はあ、助かった」
 俺は安堵のため息をついたが、そんなに神様は優しくなかった。
「いいですか、今日は早く帰れますからね。とはいっても、路上でいちゃいちゃしないのよ」
 藤ねぇはこっちを見て言ってくる。俺は真っ赤、遠坂は更に真っ赤、一成はやれやれって感じで美綴はジト目で遠坂を見ていて、蒔時なんかは笑ってやがる。他はだいたい俺を睨んでいる。
「それと、誰だかは言いませんが、同じエプロンして料理をいつもしているお二人さ〜ん、今日は先生早く帰るのでご馳走よろしく。さ、以上だから、終わりにして」
 そう言うと藤ねぇはいそいそと、消えていった。そして俺は男子生徒達によって椅子に縛られた。遠坂は女子に囲まれ動けなくなっている。すると、一成が……。

「何をしておる!!」
 と一喝し、場が静まりかえった。そして、美綴が

「そうよ、こういうのは二人に聞くのよ」

 と、いうことで俺はあの朝の戦いのように遠坂の隣に寄り添って敵である生徒全員に対峙した。その中心に一成と美綴、そして横に陸上部の三人組がいた。

「さて、これより……」
 美綴が仕切ろうとしたが……。
「なんだっけ?」
 と、ボケをかました。
「おいおい、昨日のキスについてだろ」
 蒔時は呆れながらも昨日のことをざっと説明した。
「いや、昨日な部活が終礼しかなくて早く帰れたんだよ。そしたら、そこにいる二人がキ、キスをしてしかも腕組んでたんだぜ。ちなみに問題のシーンは由紀っちと、氷室も見ているぜ。なんてったってそこに居たからな」
「ふ、遠坂嬢がいると思ったらな。く、く、く」
「ふえ、え、え、うんうん見ました」

「さて、これに反論はあるかい、衛宮?」
「なんで、わたしじゃないのかしら美綴さん」
「ふ、お主に聞いても信憑性がないのでな」
 なんてことになった。これじゃあ、自分の命を自分で狩るようじゃないか。てか、さっきから遠坂さん、足を、足を踏まないで……。
「あら、それはどういうことかしら柳洞君?」
「たわけ、ただ衛宮の方が信じられるんでな」
「あら、そうなら衛宮君、言ってあげたら」
 ああ、終わった。てか、なんでこの状況を楽しんでいるんですか遠坂さん………はぁ〜死ぬか……。

「ああ、あの場に居て、しかも遠坂にキスをしたのは………俺です。それと、俺と遠坂は付き合っているから」
 

「「「「「「…………………………………………………………………………………」」」」」」
 一瞬、沈黙が教室を支配する。そして………。
 

「「「「「「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」」」」」」

 後に、これは「伝説の驚愕」と呼ばれることとなる。


 そしてこの声は職員室まで聞こえていたらしく、先生が来てその場は収拾がついた。しかし、明日怖いな……。

「まったくどうしてこうなるのよ」
 遠坂はご立腹だ。
「だけど、しょうがないだろ。さすがにあれを見られたらな」
 そして、その前にたぶん遠坂がいきなり俺を名前で呼んだのも原因であると思うのだが……。
「そういえば、なんであの時俺を呼んだんだ」
「あの時?」
「ああ、朝俺と一成が勉強している時」
「ああ、あれ…………」
 なぜか遠坂の顔が赤くなっている気がする…。
「どうした、遠坂?」
「ねえ、その時なに話していたの?」
「は、なんだいきなり」
「いいから」
「え〜っと、確か一成と化学の確認でリンの性質を「なっ……」どういしたんだ、遠坂」
「な」
「な?」
「なんなのよそれは!!、てっきりやっと士郎が私を凛って呼んでくれたと思ったら・・・って、あっ」
「え、あ、と、遠坂」
「う、うるさいうるさい」
 そして遠坂は逃げようとしたが、逃がす前に遠坂の手をとっさに掴んだ。
「待てって、遠坂」
「うるさい、離しなさい」
 遠坂は聴く耳を持とうとしない。だから、俺は遠坂に向かって言った。

「凛!!」

「ふえ、し、士郎?」
「人の気も知らずに……」
「え、えっ?」
「あのな〜、人が一生懸命タイミングを図ってるのにさ。遠坂は勘違いをするし……」
「な、なによ……それ、それじゃあ、私が悪いみたいじゃない」
「あ、そこまでは言ってないだろうが」
「う〜」
 なんだかご機嫌斜めだな。てかさっき楽しんでいたなら、今の状況も楽しいはずなのに…。

 そんなことは今の俺にはどうでも良かった。不機嫌だって構わない。

 俺は遠坂を抱きしめた。

「え、士郎」
 案の定遠坂はいや、凛は驚いていた。
「もう、遠坂とは言わないから……」

「うん」

「凛」

「うん」
 そして凛は泣いていた。これが人生初めてのうれしさの涙だ。

「凛、なんで泣いているんだ。」

「また、士郎に泣かされちゃった♪」
 そして二人はまたもや通学路で五分ほど抱き合っていた。

「そろそろ、買い物に行こうか………凛」
「そうね。そうしないと、虎が吠えそうね」
「誰が吠えるのかしら……」

「「え……」」

 振り向くとそこには藤ねぇと桜、そして爆笑を抑えている美綴がいた。

「早く仕事が終わって、部活も終礼だけにしてみれば……」

「姉さん、先輩。買い物お願いSI・MA・SU・NE」
「ああそうだ、衛宮。私も藤村先生の誘いでお前の飯を……っと違ったな、お前らの飯をご馳走になるから」
「それじゃあ、士郎ちゃんO・NE・GA・I・NE」

「は、はい」
 そして俺は、いや俺たちはいそいそと、いつものスーパーに向かうことにした。

 しかし今度は手を繋ぐのではなく、腕を組んでその場を後にした。

 

 ちなみにこのときの夕食の話はまた別のお話で……

 

《三日目(後編)終了》

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