【5月26日〜放課後〜】
 
  学校で勉強をして帰宅しようとした俺は冷蔵庫の中身がないことに気づき、家に来る虎もとい藤ねえの咆哮から免れるため、学校の帰りいつものスーパーに行こうと思った。……そこまではよかった。うん、間違いなくよかった。あの赤い悪魔の笑顔さえ見なければ……
 
 
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〜一時間前〜
 

 俺、衛宮士郎は、クラスメイトであり、学園のアイドルであり、魔術の師でもあり、さらには掛け替えの無い恋人でもある遠坂凛に、今勉強を教えて貰っている。なんてったってあと一日で中間試験なのである。
「しっかし士郎、よくやるわね。昨日だって鍛錬の後に勉強やっていたでしょ?」
 現在、英語の勉強中の俺。分からない単語があれば遠坂に聞いているが大体は自力で解いていた。
「そりゃ、そうだろ。ただでさえ遠坂には足引っ張ってる状況なんだから、自分でもこれぐらいはやらないとな」
「あら、すこしは自覚があるみたいね」
「う、そりゃあるさ。なんたって俺は遠坂の恋人なんだぞ。彼氏がバカってのはかっこわるいだろ」
 いつもおちょくられているのでささやかなお返しをしたのだが………。
「うん、そう自覚していてくれてるんだ、んふふ♪」
 こんな感じに天使みたいな顔をする、いつもの遠坂なら『バッカじゃないの』みたいに言うのだが、たまにこういう反応がある。これではなんだか、遠坂をおちょくった俺の方が恥ずかしくなってくる。
「あ、そういえば冷蔵庫の中、空だったな。帰りがてらに買い物して行こうぜ」
 あ〜あ、なんて苦しい話の変え方なんだろう。
「そうね士郎そろそろ帰りましょう。そろそろ、あのお堅い生徒会長がきちゃうから」
「噂がたてば影指す、という諺を知っているか、遠坂?それと衛宮、最近勉強ご苦労さま。ああ、それからさっき生徒会の先生からもらった茶だが一つ余ってな、ほら」
 そう言って持っていたお茶のパックを渡してきたのは、現在の生徒会長であり、俺の親友とも言える存在であり・・・遠坂のことを嫌っている柳洞一成である。ちなみに柳洞寺というこの冬木の由緒正しい寺の息子でもある。
「あら、柳洞くんも今帰りかしら」
 なーんて、遠坂は遠坂で少し棘がある言い方だし……。
「すまないな一成、教室を貸してもらっちゃって……」
「なに気にするな。お前には今までも世話になっているしな、このようなことならいくらでも言うがいい。それに学業に精をだしているのだろう、ならば逆に学校を使わずどうする」
「いや、それでも礼はいうよ、ありがとう」
 なんて話をしていたら、いきなり遠坂が腕を絡めとり
「お、おい遠坂いきなり」
 などと言いながら遠坂の顔をみたら、案の定あの悪魔の顔をしていた。
「それじゃあ、帰りましょうか、衛宮くん。今日の夕食を買いにいかないと行けないのもね。それじゃ、柳洞くん、教室を空けといてくれてありがとう」
 そして、俺の手もとい腕を引きながら俺たちは一成の元を去った。なんか廊下のほうで「衛宮にいったい何をしたというのだ。この女狐―」なんて呟きが聞こえていたような気がしたが………。
 
 
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 そんなこんながあって今、なぜか肩身の狭い状況である。
「まったく士郎は自覚があるんだがないんだか」
 と、ぶつぶつ言いながら遠坂はお気に入りの豆板醤をカートに入れていた。
「どうしたんだ遠坂、学校出てからなんだか怖いんだが」
「さあ、士郎に心あたりがあるんじゃないの」
 言いながらお会計を済ませていた。
「は、俺に?」
 まったく分からない。何か遠坂が不満に思うことをした覚えは無いのだが……。
「朴念仁。ま、士郎だししょうがないか。それより今日の夕食は何にするのよ。たぶん藤村先生が竹刀を持って貴方の家で吼えているわよ」
「げ、確かに少し遅くなったな。しょうがない少し早く行くぞ」
 と、遠坂の手をとり、俺は歩き出した。
「え、」
「どうした、いくぞ」
「え、あ、うん」
 そう言って俺が少し力を入れたら遠坂はちゃんと握り返してくれた。終始二人とも無言だったが、手はしっかり握っていた。
 
 
《一日目終了》
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