歩き馴れた路地裏の散歩道を、私は歩き続けていた。
いつもと違うのは時間帯だけだ。日が照る中で、無為に歩いていた。
……………私は弱くなった。
まるであの時と変わらない。クスリが私をオカシクした。
黒桐幹也のコトを考えていた。あいつのコトしか考えられなかった。
────早く、帰らなきゃ。彼の待つアパートに………。
でも、今の私にその資格は無い。
私を許さないといった彼を、私はまたしても裏切ろうとしている。
太陽の光が私を素通りして、私の胸を抉り取っていく。
彼を愛しているからこそ、私は─────
「また会ったわね。この前渡した薬は使った?」
人気のない路地裏で、女が私を呼び止めた。
「その様子だと、使ってないか。いいんじゃない?それはそれで」
長い茶色の髪をした女。この辺を縄張りにする麻薬の密売人という話だ。
「恐怖なんて誰にでもあるものよ。あんただってとっくに知っていることじゃない?それなら、恐怖を受け入れて楽になることも間違いじゃないと思うけどね」
女は通り過ぎる私にそれだけを告げた。私は振り返らず、路地裏を進んだ。