「兄さん、どこへ行くつもりですか」
  事務所を出て車に乗り込む。去年の僕は、何もしていなかった訳でなく、しっかり自動車免許を取っていた。探偵業も式とパートナーを組み、そつなくこなしている。そんな矢先に所長が失踪したわけだから、そりゃいくら僕でも苛立ちはするのだ。
「式を連れて行こうかと思って」
「ここ、兄さんのアパートですけど」
「そうだけど?」
  僕が車から降りるとすかさず車から降りる二人。
「式を呼びに行くだけだから、車で待っててもらっていいよ」
「待ちません」
  きっぱりと否定され、二人を連れて部屋へと戻る。玄関のドアノブを捻っても開かなかった。どうやら鍵が掛かっているようだ。
「あれ、式いないのか」
  部屋に入ると服は綺麗に畳まれ、台所には僕が用意した朝ご飯がきれいさっぱりなくなり、皿だけの状態で纏めてあった。
「兄さん、式と暮らしてるなんて聞いていませんよ」
「ああ、式が気紛れで最近家に来ることが多いだけだよ。式の家にはテレビがないから」
  とりあえず、式がいないので外に出ようとしたその時、静音ちゃんがおずおずと口を開いた。
「あの……視えちゃいました」
  静音ちゃんがそう言ったので、部屋を一通り見回してみる。
「もしかして、これに関係していることかな?」
  台所の床に、一粒の錠剤が真っ二つに切断されて転がっていた。
「はい。そうです」
「ごめん。鮮花、静音ちゃん。今日は沙織さんの所に行けなくなった」
  僕は二人にそれだけ告げて、走りだしていた。

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