翌日。

 わたしはお客で賑わう、店内にいた。
「いらっしゃいませっ」
 それもウエイトレスとして………

 話は三時間前に遡る。

「静音、昨日言ってた考えって何なの?」
 わたしと静音は、約束通り梨本夫妻のお店に来ていた。ご主人はわたしたちが来た瞬間、厨房のほうにいなくなってしまった。そして今、わたしたちはテーブルに着き、沙織さんと今日の予定を話し合っている。
「そうそう。これだよ、これ!」
 待ってましたとばかりに、静音が持っていた紙袋をテーブルの上に乗せた。
「じゃじゃーん」
 そして、中から取り出したのは……
「メイド服?」
「正解!!」
 黒と白を基調とした西欧の家政婦が着るような、いわゆる『メイド服』だった。というか、なんで静音がこんな服を持っているのだろうか。
「まさか、わたしたちがこれを着て客引きするってことじゃ……」
「そうだよ。いい考えでしょ」
「いいわけないでしょ!!」
 思わずわたしは大声で静音に突っこみを入れた。
「ええ〜。これだったら、お客さん沢山来るよ」
「店が違う。店が!」
 ここはメイド喫茶ではない。ちゃんとした街中の洋食屋なのである。
「そうかなぁ?どう思います、沙織さん?」
 静音は沙織さんに助けを求める。良かった、これで沙織さんが断って話が終わる。
「いいわね。ナイスアイディアよ、静音ちゃん!!」
 ………って、えええええええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜。
「やっぱりそうですよね。ほら、鮮花ちゃん」
「ちょっと待ってください。このお店は、普通の洋食屋ですよね」
「あら、鮮花ちゃん失礼ね。普通じゃなくておいしい洋食屋よ」
 いやいやいや、そんなこと聞いてないっ!
「鮮花ちゃん。はい」
 マイペースに静音はメイド服をわたしに渡した。
「ちょっと待った。ダメです。こんな格好で客引きはダメ!!」
「そうかしら。こんなに可愛いウエイトレスさんなら大歓迎よ、私は」
 おいおい。まずいことになってきた。……誰か、まともに話が出来る人はいないのだろうか。
 そうだ、ご主人がいる。
「えっと、こういう話はわたしたちだけで決めてしまってはいけないと思います。やはり、ここのお店のご主人にも伺わないと……」
 わたしたちの顔も見ず、奥に引っ込んでしまったご主人だ。反対することは間違いないだろう。本当に危ないところだった。危うくメイド服を着せられて、ウエイトレスをやらされるところだった。
「確かにそうね。ちょっと、おとうさ〜ん。わたしたちの話、聞いてた?」
 沙織さんがご主人を呼んだ。そして、ご主人がわたしたちの前までやってきた。すごい迫力だ。

 そしてご主人は、ボンと一万円札二枚をテーブルの上に置いた。
「これで、頼んだ」

 さっぱり状況が掴めず、放心状態のわたし。
「はいっ!!じゃあ、鮮花ちゃん着替えに行くよ」
 そしてわたしは静音に引っ張られていった。

 

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