「トウコもお人好しだよな。下野した魔術師の起こした事件なんて放っておけばいいのに」
 ずっと黙っていた式が口を開いた。
「橙子さんの考えることは分からないけど、僕たちにとって魔術師の知り合いが増えることは良いことだと思うよ」
 兄さんは真面目に式の問いに答え、梨本夫妻に書類を渡して説明を始めた。
「鮮花ちゃん。ハッピーエンドで終わってホントに良かったね。わたしが視た未来はもっと残酷だったんだよ。沙織さんたちは離婚して、お店は結局取り壊されて、二人は離れ離れで寂しく暮らすことになってたと思うの。そんな未来を変えたのは、鮮花ちゃんと幹也さんなんだよ」
「えっ?静音の予知が外れたの?」
 静音の未来予知が外れるなんて本当に珍しい。わたしが知る限り一度も無い。
「うん。でもわたしの未来視が外れるコトっていいコトなんだよ。その人が自分で未来を切り開いてるってコトだから。全部が全部当たっちゃったら、わたしは今頃人間嫌いになってると思うの。だから、鮮花ちゃんや幹也さんのように自分で未来を切り開いて、未来をより良く変えていける人は大好きなんだ。鮮花ちゃんは気づいていないかもしれないけど、色んなトコロで色んなヒトの未来を変えているんだよ。皆を良い未来に導いてる」
 静音は時々恥ずかしいことを恥ずかしげもなく真剣に言うから、聞いてるこっちが恥ずかしくなってしまう。でも、そんな静音の言葉は心に染みて嬉しかった。
「でも、どうして未来が変わったのかしら」
「それはね、鮮花ちゃんが機転を利かして沙織さんが起こしたポルターガイスト現象をマジックショーの一部としてエンターテインメントに組み込んだからだよ。わたしの未来視通りだったら沙織さんが魔術行使をしてお客さんが皆逃げちゃって、わたしたちが犯人を言い当てて終わりだったんだ。でも、鮮花ちゃんが機転を利かしたコトでお客さんに恐怖心を与えなかったし、幹也さんが来る猶予を作ったの。そして鮮花ちゃんと幹也さんの言葉が、沙織さんを、未来を動かしたんだよ」
 実感は湧かないが、もしわたしが沙織さんたちの未来を動かしたのだとしたら、それは凄く素敵なことだと思うし、わたしも嬉しく感じる。
「でもまぁ、一件落着よね」
「そうだね。やっぱり鮮花ちゃんは凄いよ。メイド服姿も抜群に可愛かったし」
 ルームメイトのそんな一言に、はっとする。もしかしてコイツ……。
「静音、写真とか撮ってないでしょうね?」
「ふえ?写真なんて、そんなもの…………ないよ」
「なに、その間は?」
「大丈夫だよ鮮花ちゃん。鮮花ちゃんのメイド服姿が映った写真を学院で密売しようだなんてこれっぽっちも思ってないもん」
 未来視ができるくせに、静音の脳内で考えていることはだだ漏れである。
「カメラを出しなさい」
「嫌、絶対嫌!」
「出しなさい!!」
「嫌だぁ〜。幹也さぁ〜ん、妹さんがいじめてきますぅ」
「兄さんに助けを求めたって駄目です。早くカメラを出しなさい!」
「コラコラ、店内で走り回るのはやめなさい、二人とも」
「ドイツもコイツも能天気だよな」
 そんなこんなで、ポルターガイスト事件は無事に解決したのであった。
 
 
 因みに、この日に静音のデジカメを回収して中身をデリートしたのだが、なぜか翌日にはわたしのメイド服写真が学院に出回っていた。藤乃がわたしの目の前でその写真を眺めている姿を目撃しなかったら、きっと気づかなかった。
 さて、わたしの頭の中は、いかにして瀬尾静音嬢に粛清を加えるかでいっぱいである。今日のわたしは誰も止められない……。
 
 
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