「どうしてそう思ったの?」
 沙織さんはわたしにそう静かに尋ねた。
「理由は二つあります」
 決して大きな証拠となるものではないが、沙織さんの魔力を感じた他にも沙織さんの不審な点をいくつか感じていた。
「一つは、初日に沙織さんと質疑応答をした際の沙織さんの発言です」
 初の仕事に戸惑いを隠せず緊張していたわたしたちに対し、親身になって、そして真剣に依頼をしてくれた沙織さん。しかし、そんな彼女の不審な発言をわたしは聞き漏らさなかった。
「沙織さんはわたしの『とりあえず、明日は土曜日で明日から二日間学校の方もないのでここにいさせてもらっても構いませんか?』という質問に、『それは構わないけれど、お客さまがいないとポルターガイストは起こらないわよ?』と答えました」
 沙織さんは驚いたような顔をした。わたしは構わず話を続ける。
「これが沙織さんの今までの経験から出た発言だというのは納得がいきました。それでも『お客さまがいないとポルターガイストは起こらない』と断定したことがどうしても引っかかりました。普通であれば、科学的な実証がない超常現象を説明する際、人は心理的に『〜かもしれない』などと可能性を示唆するに留めるはずなんです。断定したということは、その状況を信じ切っている、もしくは正体を知っている可能性が高い。ただこれだけでは、単なる違和感に過ぎませんでした」
 この発言から少し沙織さんの言動に気をつけるようにしていた。そして、わたしは二つ目の不審な点に気がついたのである。
「二つ目は、ポルターガイストが起こったその場に沙織さんがいなかったことです。昼間の一番忙しいときにポルターガイストは起こりました。現象が起こる2・3分前に、何も告げずに沙織さんがいなくなったあとの出来事でした。そして現象が収まり、事態が収束した後に沙織さんは再び姿を現しました。慌てた様子で戻ってきて、お客さまがいることに驚いていたことを、わたしたちはしっかりと見ています」
 ご主人でさえ、ポルターガイストが始まりわたしたちが魔術を使って客の混乱を鎮めていた一部始終を厨房の脇からしっかりと覗いていた。
「沙織さん、ポルターガイストが起こっている時、貴女はどこにいたのですか?」
 わたしの質問に対し、沙織さんはゆっくりと口を開いた。
「トイレよ」
 沙織さんの答えに対し、わたしは質問を続けた。
「では、二階には上がりましたか?」
「いいえ、上がっていないわ」
「そうですか。ちなみに一階のトイレは店内のお客さまも使える個室しかありませんよね、ご主人?」
 店内には男女兼用の小さな洋式のトイレがあった。厨房にはトイレは存在しない。あとは確か夫婦が暮らしている二階に一つトイレがあっただけのはずである。

「ああ。そうだ」
「それなら、おかしいですね。確か、ポルターガイストが起こった際に一人トイレに逃げ込んだお客さまがいたはずなんですけど………」
 決定的な矛盾。沙織さんの表情を見る限り、明らかに動揺している。
「……それは、鮮花ちゃんの見間違いじゃないかしら?」
 沙織さんの声に先ほどまでの落ち着きは一切なかった。

 そしてわたしは、沙織さんにとどめの言葉を放つ。

「必要であれば、証拠の映像をお見せします。開店前にご主人に許可を取って設置した隠しカメラがありますので……」

 わたしの発言を受けて、沙織さんは膝から床に倒れ込んだ。そして、こう言った。
「私の負けね。認めるわ。一連のポルターガイスト現象は、私が魔術で起こしたものよ」
 しばらくの間、誰も口を開こうとはしなかった。

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