閑静な住宅街から少し離れたところに、小さな飲食店、雑貨屋が立ち並ぶ一角がある。商店街と呼ぶには少し小さいが、地元民に愛されている。そんな暖かい空気が流れる場所。その中に、依頼人が営む飲食店があった。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ。あら、礼園の学生さん?」
  学院側には、大学の見学ということで通している。そのため、この場には制服で来ていた。
「はい。わたしたち、この店で見られるドッペルゲンガー現象の検証及び解決のために参りました。梨本慶一様はいらっしゃいますか」
  わたしがそう名乗ると、奥にいた男が返事を返してきた。
「君達がマザーの言っていた腕の立つ除霊師か。期待はずれだな」
  腹が立つ反応だ。しかし、相手は依頼人。こちらは感情を表に出すわけにはいかない。
「はい。師は現状、手が埋まっている状態でして、わたしたちが担当させていただくことになりました」
「礼園のお嬢様なんかが、解決できるのかね。全く、甘く見られたものだ」
  立場として、わたしたちはまだ見習い。橙子師を期待していたならば、わたしたちに不満があるのは当然であり、仕方のないことだ。しかしながらわたしは橙子師の下で魔術師として一年間修行をしてきた。一人前とは言えずとも、自信はあった。だからこそ、わたしはキュレイターとして伽藍の洞に入社することを希望したのだ。
「所長、学院長の推薦書はここにあります。実績こそありませんが自信と覚悟はあります。報酬の支払いは後払いで構いません。事件が解決できなければ報酬はいりません。この事件、わたしたちに任せていただけないでしょうか」
  店主は先程から一度も目を合わそうともしなかった。
「ふざけるなよ。学生はおとなしく勉強してろ。さっさと帰りやがれ」
  わたしたちの熱意も聞き入れてもらえない。容赦が一切なかった。
「まあまあお父さん。この子たちの目は真剣ですよ。それに事件が解決しなければ報酬を払う必要がないという条件は私たちにとても有利だと思いますよ。私は彼女たちを雇いたいと思っています」
「勝手にしろ」
  それだけ言い放ち、主人は奥に消えていった。

 

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