「沙織さん、全てをお話ししますのでご主人をお呼びいただけますか?」
  沙織さんは前のように大声で呼んだりはせず、厨房まで入ってご主人を呼んで来た。
「揃いましたね。では、報告します」
  今回のポルターガイスト事件は、橙子師の出した課題であるため気構えてかかったのだが、意外にも真相はすぐにわかった。
「今回の事件は、ポルターガイストではありませんでした。人為的行為による嫌がらせ。つまり、霊の仕業などではなく人間の故意の行為により引き起こされたものです。従って、犯人がいます」
  元々、霊の仕業でないことはわかっていた。精霊などの神秘を視認できないわたしでも、ポルターガイストを引き起こす強力な霊気の存在に気付かないはずはない。複数の小さな霊気が引き起こす現象でも気配には気付くはずだ。橙子師との魔術鍛練で、既に霊的気配察知は修得済みであり、精霊と対峙した経験からも、今回の事件に霊的神秘は絡んでいないと断定できた。
「先に結論から言います」
  従って、今回のポルターガイスト現象は突発的かつ人為的なもの。魔術行使による神秘の再現なのである。
「今回の事件の犯人は魔術師である可能性が非常に高いです」
  最後まで存在不適合者の能力発動、つまり超能力の線も消えなかった。いや、今もその可能性は残っている。しかし、超能力では魔力を使用しない。今も部屋中を漂っている魔力の残滓が魔術師の存在を如実に語っていた。
「魔術とは、魔を操る術。人為的に神秘・奇跡を再現する行為の総称のことです。魔術を扱うためには、世界・自然に満ちる星の息吹たるマナや魔術師の体内で作られるオドといった魔力を使用しなければなりません。その魔力を使った形跡が、この部屋には残っているんです」
 部屋一つ操るほどの魔術を扱う使い手だ。相当優秀であることは間違いない。
「科学的根拠を一つとして示さずに魔術という話をしたので、信じていただけないだろうとわたしも思っています。しかし犯人がわかった以上、梨本様との契約を果たすために報告したいと思います」

 

 


「……犯人は梨本沙織さん。あなたですね」

  小さな町の洋食屋に芽生えた夫婦の夢の燈が、今まさに消えようとしていた。

 

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