予め用意してあった紅茶をイリヤに渡し、作戦会議は始まった。
「何から話し合いましょうか?」
  話題を挙げればキリがないが、そうだな……。
「美綴を殺さないことは決まったけど、細かい処遇は決まってないだろ。どうするんだ?」
  美綴は俺たちの魔術行使を目撃している。本来であれば証拠隠滅のためにその場で殺すのであるが、俺たちはそうはしなかった。
「この場合、記憶消去を施して自宅に帰すことがセオリーね。ただ……」
  遠坂が言い淀む。
「今の状況下ではリスクが高い……だろ」
「ええ、士郎の言う通りよ。日常生活で魔術行使を目撃されただけなら局部的な記憶消去を行えばいいんだけど、聖杯戦争中となれば話が別ね。キャスターのマスターにも私達と綾子が友人関係であることは割れてしまっているわけだし、綾子を人質に捕られて危険に晒す可能性が大いにあるわ」
  しかしながら、記憶を消さなかったとしても美綴を俺たちの戦いに巻き込んでしまう可能性があることには違いがない。
「記憶を消したとしても消さなかったとしても美綴には常に危険が付き纏うってことか」
「そうなるわね。だからといって教会に綾子を預ければいいというわけでもないわ」
「そうですね。前回の聖杯戦争のように教会が乗っ取られることもあり得るわけですし、教会は安全とは言い切れませんね」
  第五次聖杯戦争。俺がキャスターに令呪を奪われ、キャスターとそのマスター葛木宗一郎が教会を乗っ取って陣を敷いた。その全ての発端がキャスターに藤ねえを人質に捕られたことだ。
「藤ねえのようにもう大切な人は絶対にこの戦いに巻き込みたくないと思っていたのに……どうしてこうなるんだ」
「起こってしまったことは仕方がないわ。それよりも綾子をどうするかだけど……」
  遠坂と目が合った。恐らくは俺と同じことを考えているのだろう。
「聖杯戦争中は綾子をここで匿おうと思ってるわ。その間は取り敢えず記憶の消去はしないで、記憶消去云々は全てが解決した後また考え直すわ。それで…」
「あたしは両親を説得すればいいんでしょ?」
  部屋の片隅で寝ていたと思っていた美綴が半身起き上がり、こちらを向いていた。
「……綾子。ええ、お願いできる?」
「詳しい状況を隠さず話してくれるなら、あたしはアンタたちに従うわ」
  美綴の様子を鑑みるに、もう俺たちに対する恐怖心は無いように見える。ただ、現状の整理がうまくついていないようだ。
「勿論そうする。俺にとっては新しい家族も増えたしな。話すべきことは沢山ある。お互いを理解し合うことは大切だ。そうだよな、遠坂?」
「そうね。間違いないわ」
 
 こうして、衛宮家に居候がもう一人増えたのであった。

 

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