「さて、慎二との電話で判明したことだけど、大きく分けて三つかな。まず、桜が前回、そして今回の聖杯戦争におけるライダーのマスターであること。二つ目に、桜は間桐臟硯により拷問のような魔術教育を受けており、体内の隅々に刻印虫が寄生していること。そして、第六次聖杯戦争の聖杯は慎二でもイリヤでもないということだ」
  桜に電話をかけてから二時間も経たない内に、桜に関する情報が次々と集まってきた。
「慎二の情報は真実だと思うわ。慎二の声を聞いてそう思ったのもあるけど、全ての話に信憑性が高かった。慎二にしてはね」
  聖杯戦争は、騙し合い。それは、ここにいる全員が承知している。
  裏切り。奇襲。偵察。密告。人質。交渉。等価交換。
  騙し、騙されを繰り返し、聖杯を奪い合う。実力伯仲の戦いにおいては、いかにして相手の裏を斯くことができるかが勝敗の鍵を握ると言っても過言ではないだろう。
  それも重々承知の上で、俺と遠坂は、慎二を信じるという結論を出した。
「慎二の情報は信頼できるという方針で、今後の話を進めるけど、異論がある人はいるか?」
  全員が黙することで、賛成の意志を示してくれた。
「よし。それじゃあ、まずは桜がライダーのマスターだっていう件からだけど、慎二が前回の戦いでライダーに人を襲わせたり、学校に結界を張ったりと積極的に動くことはあると思うか」
「いいえ。その可能性は低いと思うわ。桜が前回の聖杯戦争でライダーのマスター権を放棄したのであれば、桜が慎二のように行動するとは思えない。これは、わたしの希望的観測に過ぎないわね。それでも、元姉として、わたしは桜を信じるわ」
「ああ。それでこそ、遠坂だよ。明日、桜の家に行ったら……」
  遠坂の発言は、確かに感情的過ぎる。しかし、今回は仕方がないと思っている。仕方がないとは、消極的な意味で言っているわけではない。今回は、遠坂に気が済むまで人間らしくいてほしい。普段は、魔術師として冷静かつ適切な判断を下すことのできる遠坂だ。だからこそ、桜といるときぐらいは遠坂らしい遠坂でいてもらいたい。その分のフォローは俺たちがやる。普段とは逆の立場だけど、自然に支え合えるのが生涯のパートナーってものだ。冷静な判断が下せない魔術師なんて遠坂の隣を歩いていいはずがない。遠坂が許しても、俺が許せない。
「遠坂は桜に思う存分、想いをぶちまけてくれ。フォローは俺たちがしてやるから」
「ええ。ありがたく、そうさせてもらうわ。人間くさい遠坂凛なんて、桜が見たらたまげるでしょうけどね」
「そうかもね。あたしも正直、びっくりしてる」
 美綴が言うくらいなんだから、今の遠坂は相当普段と違うんだなあ。

  

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