桜だって!?
「桜が聖杯って、どういうことなんだ、慎二」
《だから、誰が聖杯かなんて知らないって言ってるじゃないか》
「俺が聞きたいのは、桜が聖杯かどうかじゃない。どうして桜が聖杯になれるのかってことなんだ」
《余計分からないね。これ以上衛宮と話しても時間の無駄だ。もう切らせてもらうよ》
「ちょっと待て、慎二!」
《もし今度、桜に会うことがあったら、今まで酷いことをして悪かったと僕が言ってたって伝えてくれ。それじゃ、桜のことは頼んだからな、衛宮》
 電話はそこで切れた。最後の慎二の言葉は、心の籠もった優しい言葉だった。
 第五次聖杯戦争中の慎二は、周囲が全く見えていなかった。サーヴァントという強大な力を手に入れ、自惚れとプライドが突き動かすままに行動していた。それが結果的には、破滅を導いてしまった。慎二の自業自得だと言ってしまえばそれまでだ。しかし、慎二の行動が間違っていたとは、一概には言えない。魔術師の判断としては、魔力不足の際にサーヴァントに人間を襲わせて魔力供給を行うことは正解と言える。人として最低な行為は、魔術師として模範的な行いになることがしばしばある。第五次聖杯戦争における慎二の一連の行動は、そんな二律背反の行動だったと言えよう。
  ゆえに、今回の慎二は信じて良いと俺は思っている。最後に残した桜へのメッセージは、紛れもない慎二の本心だった。もし今回の一連の会話が全て慎二の虚言であったとしたら、俺は慎二を友人とは思えなくなる。慎二は元々優しいやつだ。慎二が桜の義兄であったとしても、慎二は桜を大切に思っている。そう感じた電話だった。
「遠坂、少し慎二を見直したんじゃないか?」
「そうね。慎二を許せない気持ちは変わらないけど、それでも桜の兄でいることぐらいは任せてあげてもいいかな」
  第五次聖杯戦争は俺にとって、人生を180゜変える経験となった。それと同様、慎二もあの戦いで何かを得、失ったのであろう。
「しかし、これで俺たちが次にやるべきことは見えてきたな」
 第六次聖杯戦争の鍵を握っているかも知れない人物、間桐桜と会い、できることならこちらの陣営に引き入れる。
「そのためにも、まずは今まで解ったことを整理するか」

 

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