《シロウ、聞こえますか》
  セイバーの意思が、ラインが通して伝わってきた。
「セイバー。何かあったのか?」
《ええ、急いで駆け付けてみれば、驚くべき光景が広がっていました。わたしの視界にリンクしてください。そのほうが説明するより早いかと》
「わかった」
  セイバーの視点に意識を移行した。セイバーが言う通り、そこには目を疑う景色が広がっていた。
  まず、視界に入ってきたのは先程まで俺たちと戦っていたキャスターとそのマスターの悲惨たる姿だった。キャスターの宝石がちりばめられた豪華絢爛な衣装は肩口から斜めにざっくりと引き裂かれ、露出した肌は剣で抉られ、全身が血液で紅く染まっていた。その隣で蹲っているキャスターのマスターは右腕を失っていた。服の袖口からは大量の血が流れ出しており、出血を止めようと朦朧とした意識下で必死に魔術を唱えようとしている。その二人の後方、地下駐車場に不自然に置かれたソファーの上に、純白のウェディングドレスを身に纏い、片腕をついて横たわる女性の姿があった。
「綾子!!」
  確かに遠坂が言うように、女性の顔は美綴そのものであった。美綴は、学園では見たことがないほどの恐怖の表情を浮かべていた。凄惨な光景の中で非常に浮いていた美綴であるが、さらに場違いな人物が存在した。
「……イリヤスフィール」
  美しい銀髪を携え、雪のように白い肌の少女は見違うはずもなく、イリヤスフィール=フォン=アインツベルンその人であった。しかし、イリヤスフィールは前回の聖杯戦争でギルガメシュに心臓を抉り取られて死んだはずだ。今この場に彼女が現れるはずない。
「士郎、貴方があの場所に行くのはまずいわ」
  イリヤスフィールとの面識は全くなかったにも関わらず、彼女は初めて会ったときから俺のことを知っていた。そして、俺たちを殺すことに何のためらいもなかった。むしろ彼女は俺を殺すことに意味を見出だしていたように思う。
「たとえイリヤスフィールが俺の命を狙っているのだとしても、俺は行くよ。美綴を見捨てるなんてことは俺にはできない」
  美綴がどうしてあの場にいるのかはわからない。それでも俺は美綴とあらゆる問題を解決することを約束した。今ここで逃げてしまえば、美綴に会わせる顔がなくなってしまう気がする。
《確かにシロウの気持ちも分かります。しかし相手が悪すぎる。ここは一旦引くべきだと思います》
  今セイバーとラインを共有しているため、セイバーの想いが深く俺に浸透してくる。同じように俺の気持ちもセイバーに伝わっているのだろう。
「悪いな。遠坂、セイバー。もう俺の決意は固まったよ」
  キャスター、美綴、イリヤスフィール、バーサーカー。あの場に行けば自分の身が危ないということはわかる。しかし、そこには救わなければならない人物がいる。それにイリヤスフィールとバーサーカーともいずれは戦わなくてはならないのだ。それが早まったと考えれば、今も後もたいした差はない。
「まぁそれでこそ士郎といったところかしら。ねぇ、セイバー」
 今更気付いたが、遠坂はランサーとラインを繋がず、俺とラインを繋いだようだ。
《ええ。頑固なところは相変わらずです》
  セイバーや遠坂のほうが頑固だと思う。
《シロウ、何か言いました?》
「衛宮くん、何か言った?」
  何も言ってません。

 

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