「綾子が巻き込まれてしまったわたしたち魔術師の戦いは、聖杯戦争と呼ばれているわ。ある偉大な魔術師たちが創り上げた願望機たる聖杯をめぐって、七人の魔術師たるマスターと歴史上の英雄を霊体化させ現界させたサーヴァント七体が殺し合いを行うという儀式なの。わたしと衛宮くんとイリヤはそのマスターで、セイバーとランサーはサーヴァントよ」
  信じられないという目で美綴はセイバーたちを見ていた。
「綾子が目を疑うのもわかるわ。セイバーたちはサーヴァントとは言っても一般的に言う、霊よりも人間に近い存在なの。霊体化ができて尋常ならざる能力を持つ他はね」
「……その、セイバーさん、握手してもらってもいいですか」
「構いませんよ」
  セイバーが手を差し出し美綴が握り返した。
「……まるで霊体とは思えない」
  美綴の驚きも分かる。俺も前回の聖杯戦争では事実を受け入れるのに随分と時間がかかった。
「セイバーたちが生前と同じように現界していられるほど、この町の聖杯は強力だってことなの。聖杯の力を使わなければ受肉はおろか英霊の魂をこの世に召喚することすら出来る魔術師は一握りしかいないでしょうね」
「要するに、聖杯が強力な分、自ずと実力者が集まってくるってこと?」
「はい。メイガスの中でも優秀な者が聖杯に選ばれます。数合わせでシロウのような魔術に乏しい者が選ばれることもありますが、特殊な能力や思考の持ち主であることが多いので、油断はできません」
「それにマスターがどんなのであれ、サーヴァントは英霊の座に上り詰めた強者しかいないわけだからどんな相手でも油断はできないわね」
  セイバーも遠坂もこちらをじろじろ見ながら話しているのが気になるが、まぁ目を合わせたら負けだろうな。
「つまりだ、嬢ちゃん。聖杯戦争で油断した奴には死が待ってるってこった」
「……はい」
  美綴も随分と恐縮している。まぁ、無理もないよな。
「とりあえず聖杯戦争の恐ろしさは綾子に伝わったみたいね。でも、綾子のことは全力でわたしたちが守るからそこまで気を張り続けることはないわよ。それにわたしたち強いし」
  油断するなと言っといて最後の一言はどうかと思うが、遠坂らしい言葉だ。遠坂本人が意識しているかは分からないが、美綴には遠坂が遠坂なんだってことを理解してもらえたんじゃないかと思う。
「いやしかしアンタたちが魔術師で魔術師同士の殺し合いをしてるって話には驚いたけど、それよりあの遠坂と衛宮がまさか同居してるとはねえ」
  理解しすぎってのは困るけどな……。

 

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