「どういうこと?今のアンタの心臓はイリヤのモノだったはずよ」
  第五次聖杯戦争において、イリヤはギルガメシュに心臓を抉り取られ、慎二に移植された。慎二に移植されたイリヤの心臓は、慎二の内に秘められた魔術回路を覚醒させ、聖杯として機能したのだ。
《イリヤってイリヤスフィールのことかい?あの小娘の心臓が僕の中にあると思うと不愉快ったらありゃしないね。魔術回路が使えるようになるかと思えば、あのとき発動して以来魔力の魔の字も感じないし。期待させておいて、はっきり言ってウザイんだよね》
  イリヤの顔を覗くと、明らかに怒っている。慎二に生きていることを知られたくないのだろう、今にもぶちギレそうだが、決して声には出さない。憤りで震えるイリヤの手を、セイバーが必死に握って宥めていた。
「イリヤの心臓がなければ、今頃慎二は生きていないかもしれないじゃないか。少しはイリヤに感謝しなきゃダメだぞ」
  なんとかフォローを入れてみる。
《はっ、バカじゃないの、衛宮。僕があの小娘に感謝をしろだって?元はといえば、あの小娘が聖杯なんかでなけりゃあ、僕が一度殺されるなんてこともなかったんだ。全く、迷惑極まりないね》
  これでイリヤの怒りはますます増幅されるのであった。
「分かった、分かった。じゃあ話を戻すぞ。慎二が今回の聖杯じゃないことは間違いないんだな」
《ああ、間違いないね。第一、僕が聖杯だと自覚してたら君たちに電話をかけると思うかい?かけるわけないだろう。そのぐらい分かれよ》
  確かに、慎二がもし聖杯なのだとしたら、もっと切迫した泣き縋るような電話をかけてくることだろう。
「慎二が聖杯じゃないのだとしたら、いったい誰が聖杯なんだ?」
  イリヤという可能性が大きいと思い、イリヤの方を向いてみた。イリヤは俺と目が合うと首を振った。イリヤも今回の聖杯じゃないのか。
《聖杯が誰かなんて僕が知る訳ないじゃないか。それに、全く興味がないね》
  今回の聖杯は、慎二でもイリヤでもない。だとすれば、いったい誰なのか。
《ただ、心当たりはある。多分、今回の聖杯は桜だと思うね。前に爺さんが、桜が聖杯として機能すれば理想の器が手に入るみたいなことを言ってたからね

 

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