岩のような剛腕から振り下ろされた斧剣が目の前で空を切った。
「こりぁ、当たれば即死だな」
  ランサーでさえそう感じるのだ。俺が食らえばどうなることか。なぜかふと、胴体を切り裂かれ辛うじて皮だけが繋がっている自分の姿が脳裏に浮かんだが、忘れることにする。
「シロウは後方支援に徹してください。この場は、私とランサーが引き受けます」
  俺も前線で戦わせてくれと言いたいところだが、バーサーカー相手ではダメージを与えることさえできないだろう。
「わかった。なるべく投影で応戦するよ」
  セイバー達が戦うため、頻繁に剣を放つことはできないが、単発でも援護にはなるはずだ。
「わかりました。ただ、無理はしないでください。シロウはいざというときの要となる。魔力の無駄遣いだけは避けてください」
  セイバーが戦力として俺の実力を評価してくれたことが嬉しい。信頼を裏切らないためにも的確な判断で効果的な攻撃をしかけることを徹底しよう。
「坊主、話はそこまでだ。ヤツがくるぜ」
「――――――――!!」
  唸り声をあげてバーサーカーが接近する。それにランサーが応戦し、斧剣を回避しながら突きを放つ。
「体が堅すぎるぜ。オレの槍が当たって、体勢を崩すだけで平気な顔をしてやがる」
  確かにランサーの迅速の突きをまともに食らい、傷一つ付かないバーサーカーの体は常軌を逸している。それでも相手に反撃の余地を与えず、相手の急所を的確に突く攻撃は、さすがはランサーといったところだ。
「守備が甘い。相手の攻撃を躱し切れば勝機はある」
  しかし、敵は古代ギリシア屈指の英雄ヘラクレス。その卓越した戦闘能力で相手がこちらの速さに順応してきてしまえば為す術もなくなる。その為、早期決着が望ましい。
  現在のところ、ランサーが猛攻を見せ、バーサーカーの動きを止めていた。その間隙を縫い、セイバーが強力な打撃を加える。絶妙なコンビネーションではあったが、バーサーカーに決定打を与えるには至っていない。
「嬢ちゃん、これじゃ埒があかねえ。使っていいか」
「ええ。むしろ、使うなら今しかないわね」
  ケルト神話における半神半人の英雄クー・フーリン。その彼が所有する宝具『ゲイ・ボルク』、因果を逆転させる“原因の槍”。刺された者はこの世にゲイ・ボルクが存在する限り決して回復できず、死に至るまで傷を背負う。まさにその呪いの槍がバーサーカーに牙を剥く。
「刺し穿つ死棘の槍!!」

 

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