俺が持ってきた布団の上で、二人の美少女が寝息を立てていた。
「遠坂、桜の様子はどうだ?」
「今のところは大丈夫よ。魔力の循環も少し落ち着いたみたい」
 桜はライダーに語りかけたきり目を覚ましていない。相変わらず危険な状態で、予断を許さない状況だった。
「問題は、こっちか……」
 ライダーに血を吸われた美綴も、あれから5分目を覚ましていない。
「アヤコ…お願いです。目を覚ましてください…アヤコ」
 ライダーは、二度目の吸血となる美綴の体調面を考慮して、吸血量を極端に抑えたのだそうだ。通常であれば、美綴の体は性行為によって絶頂
に達したときの快感に近い感覚を覚えるだけのはずだった。しかし、ライダーの吸血が終わった後、美綴はその場に崩れるように倒れ込んでしまったのだ。
「ライダー、大丈夫だって。ただの貧血だろ?」
「士郎、このままだとアヤコの体が危ない……このまま目を覚まさないとアヤコの体は……」
《バチン》
 電気がショートするような破裂音が部屋中に響き渡った。
 そして次の瞬間、美綴の体が光り出し、バチバチと音を立てて電流が美綴の体の回りを爆ぜ始めた。
「まずいわ。綾子の体内で魔力が逆流し出している」
 遠坂が美綴の元に駆け寄り、宝石を飲ませている。
「一体これはどいいうことなんだ?」
「魔術回路の暴走ね」
 先程まで静かに座っていたイリヤの発言だった。
「美綴は普通人だぞ」
「彼女は魔術回路を持っていたのよ。ただ、今まで発現しなかっただけ。だから、ライダーに血を吸われて変に魔術回路のスイッチが入ってしま
ったのね」
「じゃあ、どうしたらいいんだ。イリヤ」
「もうどうしようもないわね」
「そうなのか、遠坂!!」
「ええ。魔術回路の暴走を止めた事例は今までにないわ」
 美綴は全身が痙攣し、時に上下に跳ね上がっている。見過ごせば取り返しのつかないことになるのは誰の目にも明らかな状態だった。
「どうにもならないのか、何か方法はあるだろ!」
 このまま何もしなくていいのだろうか。
 いいはずがない。それは誰もが分かっていた。
「わたしの宝石では、魔力の逆流は抑えられないわ。綾子が自分で魔力の流れをコントロールする必要があるのよ。生まれてからずっと綾子の体
内に封印されていた魔術回路に突然刺激が与えられて過剰反応している状態なの。外部からの魔術干渉は非常に難しい状態だわ。内部から魔術回路の操作を行わないと制御不能なのよ」
「桜とは状況が違うのか?」
 桜も魔力の逆流によって発作を起こして今眠っている状態にある。
「桜は自らある程度魔力のコントロールを行うことができているの。アンリ・マユにとっても素体となる桜の体を破壊するわけにはいかないわ。
それで、ギリギリのところで自己防衛機能が機能しているわけ。それもあって、桜の自我が薄れていっているのよ」
 同じ魔力の暴走でも状況が全く異なるということか。
「ライダーが美綴の体に干渉することはできないのか?」
「それはできません。私の干渉は、余計にアヤコの魔術回路を刺激することになります」
 誰がやっても魔術の干渉は受け入れないのか。
 しかし、それであれば方法が一つだけあるのではないだろうか。
「遠坂、美綴の魔術回路の内部からの操作を行えばいいんだよな」
「そうよ。………士郎、まさかアンタ」
 絶対に、美綴の勇気を無駄にすることはできないのだ。
 
 
 
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