ランサー・美綴を除く四人は何かしら第四次聖杯戦争に関与している。しかし、実際に参加していたのはセイバーだけだ。俺たちには当時の状況がイマイチ分からなかった。
「セイバー、第四次聖杯戦争の詳しい状況を説明してくれないか」
  そう問い掛けるとセイバーは困った顔をして、答えた。
「第四次聖杯戦争は、第五次の時のように、様々な要因が複雑に絡み合っていて、当事者である私でさえ、正確に把握することは出来ませんでした。言葉で表現するのは非常に難しいものがありますね」
  確かに第五次聖杯戦争を詳しく説明しろと言われれば困難であると答えるだろう。それほど、状況は多面的であり、情報が錯綜していた。
「整理されてなくてもいいさ。セイバーが知っている第四次聖杯戦争を教えてくれないか」
「わかりました。では、私が召喚されてから聖杯を破壊するまで、順を追って説明します」
  そして、セイバーが話し始めようと口を開いた瞬間だった。
「待って!」
  言葉を遮ったのは、イリヤだった。
「どうしたんだ、イリヤ?」
「聞きたくない。聞きたくないよ」
  イリヤの体は震えていた。
「イリヤ。気持ちはわかる。それでも、第四次聖杯戦争に第六次聖杯戦争を勝ち抜くための情報が隠されているかも知れないんだ。だから………」
「そんなこと分かってるわよ。だけど、切嗣がお母様を殺したことなんて聞きたくないに決まってるじゃない!!」
「甘ったれるんじゃないわ」
 これまで黙っていた遠坂が口を開いた。
「わたしだって、第四次聖杯戦争でお父様を亡くしてるの。それに、お母様もあの戦いの後、精神が壊れてしまった。わたしはあの戦いで何もかもを失ったのよ。だけど……それが何だっていうの!!過去があるからこそ、今のわたしがいる。過去を過去と認めなかったら、今のわたしは一体何なのよ。あの戦いがあったからこそ、今の遠坂凛がいるのよ。あなただってそうでしょう、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン?」
 イリヤは無言のまま頷いた。
「わたしたちは過去と向き合う勇気を持たなくてはいけないのよ。ずっとわたしもお父様の死を引きずっていたわ。でも、前に一歩を踏み出すためには、過去を見つめているばかりでは意味がない。過去の呪縛から逃れるためには、過去と対話をしなければ何も始まらない。だからわたしは、両親の死とも、実妹の桜とも真剣に向き合っていく」
 イリヤは立ち上がった。
「わたしだって過去と向き合えないなんて言った覚えはないわ。お母様の死を、切嗣が聖杯を壊したなんていう簡単な言葉で終わらせたくはないだけよ。セイバー、手を出して」
 戸惑いながらも差し出されたセイバーの手を握り、イリヤは詠唱を紡いだ。
「Das Bewußtsein gemeinsamer Besitz」
 視点が切り替わる。どうやら、目の前には見えるはずもない俺の姿がある。
「どうなってるんだ?」
 自分が発言したはずが、目の前に見える衛宮士郎が口を開いていた。
「一時的な意識共有よ。セイバーの思考を、全員が共有できるように意識を繋いだわ。これで、セイバーが第四次聖杯戦争の記憶を回想すれば、自動的にわたしたちも同じ情景を見ることができるわ。でも、あくまでセイバーの思考のみが再生可能よ。セイバーの記憶の断片を、わたしたちが取り出すことはできないわ」
「……イリヤ。おまえは……」
「勘違いしないでよね。映像なしじゃ、わたしが納得できないだけなんだから」
 言葉とは裏腹に、イリヤの瞳からは一粒の涙が流れ出しているように見えた。

 

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