イリヤとは分かり合うことができた。しかし、これで終わりではない。もう一人、俺と遠坂の共通の友人がこの場にいた。絶対にいてはならない一般人の共通の友人が……。
「美綴、怪我はないか」
「ええ」
  返り血を浴び、純白のウエディングドレスも所々が深紅に染まっている。その姿もどこか妖艶で、美しいと感じさせた。
「美綴、おまえはどうしてここに………」
「それはあたしが聞きたいさ」
  その瞳は恐怖と不安に満ちていた。見たことのない、美綴綾子の姿がそこにはあった。
「昨日の朝、アンタたちは間桐と喧嘩をしただろ。あたしはそのことが心配で、ずっと間桐の携帯に電話をした。でも、間桐が電話に出ることはなかった。だから、留守録に新都に出て、二人だけで話し合おうと入れたんだけど、一日粘って間桐は結局来なかった。諦めて帰ろうとしたら、不審な二人組に攫われて、花嫁の姿を強要されたんだ」
  美綴をこちらに巻き込んでしまったのは、俺たちだった。始業式のあの日、あのようなことがなければ、美綴がこの場にいることはなかった。
「………………」
  美綴にかける言葉が見つからなかった。魔術行使を目撃した一般人を始末することは、魔術師の暗黙の了解となっている。それに従い、俺たちは美綴に対し何らかの措置を取らなければならない。
  暫く沈黙が続いた後、先に言葉を発したのは美綴だった。
「一体、アンタたちは何者なんだ」
  美綴は、隠すことなく警戒心を顕にしていた。友人として俺たちを見ていない。敵として認識されているのだろうと思う。美綴の反応は当たり前のことだと理解しつつも、悲しいかった。
「俺たちは、魔術師と呼ばれる存在だ。目に見えぬ魔力を扱い、神秘を体現する」
  美綴の表情は一向にして厳しいままだ。
「アンタたちはずっと、あたしのことを騙してたんだな」
  俺の心に美綴の言葉が突き刺さった。騙していたわけではない。しかし、結果として俺たちの素性を美綴に知られてしまった今、美綴を騙していたことと何ら変わりはない。美綴に反論することができなかった。
「何かいいなよ、衛宮、遠坂」
 ただ黙っていることしかできない。そんな自分が辛い。
「黙ってるんじゃないよ。何か言ってよ、衛宮、遠坂」
 美綴の瞳からは一筋の涙が流れていた。
「ごめんな。美綴………」
 美綴の背後から、遠坂が魔術を掛けた。瞬間、美綴の体は硬直し、地面に崩れ落ちた。

 

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