「ちょっと待ちなさいよ。同居って!」
  ……はぁ。まんまと遠坂は美綴の話に乗ってしまった。
「わたしが借りてるのは別棟の一室で、たまには家に帰るのよ」
  あの冷静で機転の利く遠坂はどこに行ってしまったのだろうか。
「たまに帰るってことは、ほとんどこの家にいるってことよね?」
  けらけらと笑っている美綴は楽しそうだ。
「……うっ。仕方ないじゃない、聖杯戦争中なんだから」
「そう。聖杯戦争前は泊まってないんだ」
「それは……」
  遠坂、敢えなく敗北。
「あはは。熱々すぎて笑いしか出てこないわ、こりゃ」
「……何が可笑しいのよ」
「学園の優等生かつアイドルの遠坂凛の慌ててる姿は滅多に見れるものじゃないからねえ。ねえ、衛宮?」
「確かに、よくもまぁあれほどまでに猫の皮が被れるよなぁと常日頃思うよな」 
  まぁ、今の俺にとっては素の遠坂が遠坂凛であり、俺が憧れていたあの遠坂凛なんかよりも断然好きである。なんてことは、恥ずかしくて本人に言えないが………。
「魔術師なんだから、素の自分を隠すのは当たり前でしょ」
 あっ……拗ねた。
「ところで衛宮、間桐や藤村先生はアンタたちの素性を知ってるの?」
 美綴は、あからさまな話題転換を行う。遠坂も不機嫌そうにはしているが、これ以上美綴に突っかかりはしないようだ。
「桜と藤ねえはおろか、ここにいる人以外は俺たちの素性は知らないはずだぞ」
「そうね、綾子が知る人物では、後は間桐慎二ぐらいね」
 そう言えば、慎二も魔術師の家系だった。
「慎二か。……アイツも魔術師だったって訳ね」
 前回の聖杯戦争において、慎二はライダーに命令し美綴を襲わせた。美綴は教会に保護されて、一部の記憶は改竄されたらしいが、今でも新都の裏路地はトラウマとして残っていると美綴に病室で打ち明けられたのを覚えている。美綴の退院後も、慎二の流した在らぬ噂話で美綴は何週間か人々から好奇の目で見られていた。
「いえ、間桐家は元々魔術師の家系ではあったんだけど、その血は衰退していって、ついに慎二の代では魔術回路がなくなってしまったのよ」
「なら、桜の方も魔術師ではないけど、魔術師の血を引いてるってこと?」
「それは………」
 珍しく遠坂が言い淀んだ。
「ああ。きっと桜の方も魔術師の血は引いてるんじゃないかと思う。でも、魔術師の世界では一つの家系で魔術を継承するのは一人らしいんだ。だから、魔術師としての知識は慎二に継承されて、桜は魔術に関して何も知らないと思う」
「そうか。……ところで衛宮と遠坂、アンタたち間桐とは仲直りしたの?」
「それが、まだなんだ」
「昨日の夜も合間を縫って桜に電話をかけたんだけど、何度かけても留守だったわ」
「あの……サクラがどうかしたのですか?」
 そういえば、桜と俺たちが衝突したのは聖杯戦争前だったから、セイバーは何も知らないんだったな。俺たちは始業式の日にあったことを、セイバーたちに説明した。

 

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