「こりゃ、アンタら間桐に盛大に嫌われたな」
 遠坂が桜に電話をかけた結果、俺たちと桜の溝はさらに深まることとなった。しかし、先ほどの電話での桜に俺はどこか違和感のようなものを感じていた。
「桜、少し変じゃなかったか」
「やっぱり衛宮もそう思った?あたしもなんか間桐らしくないと思ったのよね」
 美綴の言葉を受けて、すっかり意気消沈していた遠坂が口を開いた。
「……それは、どういう意味?」
「詳しいことは言えないんだけど、桜は無理してるように感じたかな。なにかを訴えたいけど言えない。孤独になることで全てのことから逃げているようだった」
 声だけなので何の確証もないが、桜の声は人形のように感情のない声だった。俺が桜とはじめて出会ったときの印象に似ていた。
「シロウたちから逃げてるだけじゃないの?」
  興味がないといった様子でイリヤが答えた。
「そうなんだけど、それだけじゃなくて俺たちに会ったらなにかまずいことでもあるんじゃないかと思ってさ」
  桜は俺たちに何かを隠している。そんな気がする。
「間桐のことだし、そっちが妥当じゃない?アイツ、アンタらに似て何でも一人で溜め込むタイプの人間だしさ」
  確かに桜から何か相談を受けるということは今まで一度もなかったかもしれない。
「……そうなの?」
  驚きの表情で遠坂が聞き返した。
「ええ。あたしはよく弓道場に一人で行くんだけどね、その時に一人床に座って溜め息を吐いている間桐の姿を見かけたことがあってさ。どうしたって聞いても逆にどうしたんですかって質問し返されてその時はうやむやにされたのよ」
  俺にも似たような経験があった。ただ、そんな時に桜に話しかけても必ず話を逸らされてしまうのだ。
「やっぱりあの子相当な苦悩を抱えてたんだと思う。だから間桐に相談もしてもらえないあたしはまだ信用されてないんだなって落ち込んだけど、アンタらにも同じ態度をとってたなら、別に信用されてないわけではなかったのかねえ」
  遠坂の方を見ると、頭を抱えて俯いている。
「どうしたのさ、遠坂」
「わたし、本当にバカだ。桜は幸せに暮らしてるなんて勝手に思ってた」
  どうも桜の話題になると遠坂の様子がおかしくなる。桜の心配をしていることは分かるのだが、遠坂らしからぬ過剰な反応を見せるのは最早気のせいではないだろう。
「なぁ遠坂、前から疑問に思ってたんだが、桜と遠坂の接点ってなんなんだ?」
  遠坂と桜が二人でいる姿はあまり見ない。遠坂はよく弓道場に顔を出すらしいが、弓道部に入っているわけではない。桜と遠坂の出身中学も違うし、学年も異なる。遠坂が桜を必要以上に心配する理由はない。
「ふーん。リンはサクラとの関係を皆に言ってないんだ」
  思わぬ人物から声があがった。
「ちょっと、イリヤ!」
  声を荒げて動揺を表に出してしまったことで諦観したのか遠坂は大きな溜め息を吐いた。
「分かったわ。もう、全部話す」
  遠坂はそう言うと、ゆっくりと語り出した。

 

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