「わたしのことはどうでもいいわよ。それより、桜の話を続けましょ」
「そうだな。じゃあ次は、桜が第六次聖杯戦争の聖杯かも知れないことについて、皆の意見が聞きたい」
  慎二は、自分が聖杯でないと主張していた。慎二の魔術回路は前回の聖杯戦争で聖杯として機能して以来、一度も開かれていないらしい。慎二が魔術回路と魔力を混同していたあたりは、慎二の言葉に説得力を与える。魔術師であれば魔力の有無に関係なく魔術回路を知覚し操作できる。俺は特に、魔術回路の"スイッチ"ではなく、"電源"自体をオン・オフしていた稀有な存在なので、魔術回路に関係なく魔力を感知できることを体感している。慎二の言葉なので百パーセント信頼できはしないが、慎二の言動を考慮すれば慎二が聖杯を自覚しているとは思えない。気付いていない可能性もあるが、サーヴァント一体の魂が流入して違和感すら感じないことは無いだろう。
「そうね。慎二が聖杯でないのは会話を聞いていて確信したわ。ただ、桜が聖杯だという慎二の予測は、的を得ているように思えてどうも信じきれないわね。まず、イリヤが聖杯じゃないのは本当なの?」
 慎二からの電話の最中、イリヤに目配せした際にイリヤは首を振っていた。
「わたしは聖杯じゃないわ。そもそも、わたしの心臓が聖杯として機能していたんだもん。魔術刻印すら移植していないこの人形の体が、聖杯として選出されることはないわ。聖杯には大聖杯とラインが繋がっている人物や物体が選ばれるの。だから、普通聖杯は、アインツベルンからしか出ることはないんだけど、今回の聖杯はウチからのモノじゃないよ」
 聖杯と繋がっていたイリヤが言うのだから、イリヤが聖杯でないのは間違いないだろう。
「それならイリヤは誰が聖杯だと思う?」
「う〜ん。シンジが聖杯じゃないのは間違いないわ。聖杯戦争が始まったときにわたしの死体の反応を見てきたんだから。シンジが聖杯なら、わたしの死体の魔術刻印も何か変化しているはずなのに、何にも起こってなかったのよ。だったら、わたしでもシンジでもない誰かってことになるでしょ?」
 イリヤでも慎二でもない誰か。それは、桜なのだろうか?
「例えば、桜が聖杯になることは可能なのか、イリヤ?」
「もちろん可能よ。大聖杯と繋がってさえいれば、どんなモノでも聖杯として選出される可能性はあるわ。聖杯はね、大聖杯との繋がりの深さで決まるの。大聖杯との繋がりを持っていれば、アインツベルンかどうかは関係ないわ」
「それでも桜が大聖杯と繋がることは不可能じゃないのか」
 イリヤの言葉は裏を返せば、大聖杯と繋がっていなければ聖杯にはなれないということだ。
「ううん。サクラが聖杯に選ばれることも場合によってはあり得るわ。例えば、サクラの体内にかつての聖杯の一部が埋め込まれていたりとかね」
「なんだって?それじゃあ………」
「第四次聖杯戦争で間桐臓硯が桜の体内に、聖杯の破片を埋め込んでいたとしたら………」

「サクラが聖杯に選ばれる可能性は十分にあるわ」

 第四次聖杯戦争の聖杯は確か、イリヤの母親だったはずだ。
「シロウ。思い返せば、アイリスフィールは最後、何者かによって連れ攫われたのです。わたしは、言峰綺礼の仕業であると思っていました。しかし、これが間桐臓硯の仕向けた策謀の内だとしたら、全ての歯車が噛み合い出す」
 この場にいる中で、唯一第四次聖杯戦争を知るセイバーは、一つの結論を導き出した。
「切嗣にも戦いの道具としてしか認められていなかったことには気づいていたが、どうやら私は、言峰綺礼や間桐臓硯の掌の上でも踊らされていたようだ。この第六次聖杯戦争、アイリスフィールを守れなかった償いをするための神から与えられた機会なのだろうか。ならば今度こそ私は、騎士王の名にかけてもシロウやリン、イリヤスフィール、サクラ、タイガ、アヤコ、私が愛してやまない者達を守り通さねばならない。───── 断言はできない。しかし、サクラが聖杯である可能性は極めて高いと私は思います」

 

戻る

inserted by FC2 system