俺はセイバー達を信じ、全力で剣を投げ切った。
「なに!?」
  敵は頭上より迫り来る剣の豪雨に体勢を崩す。その一瞬の隙を見逃さず、セイバーが斬り込む。
「貰った!」
「甘い!!」 
  敵は烈火の如く迫るセイバーの目前に、巨大な炎の壁を作り出す。
「くっ」
  セイバーは己の直感スキルを発揮し、追突一歩手前で上体を右にひねり、回避した。
「このような攻撃で我を仕留めようなぞ、百年早いわ!」
「よそ見してると痛い目をみるぜ」
  突如、ランサーが敵の左後方から出現した。ランサーはそのまま突きの体勢に移行する。
「貴様がどこぞの英雄かは知らぬが、我には指一本も触れられぬわ」
  瞬間、敵が炎に包まれたかと思えば、姿を消し、代わりに敵の形をした炎が現れた。ランサーの突きは、その炎の塊を貫いたが、何も起こらない。
「なんだと。何が起こった?」
  すると、一度霧散した炎が再び一点に凝縮し、人間の形を顕す。
「空間移動魔術。限りなく魔法に近いと言われる大魔術よ。それを何の詠唱も無しにこなすなんてありえない」
 魔術を発動する際、魔術師は必ず詠唱を行う。つまり、詠唱がない場合は、それが魔術ではない、もしくは……
「この火事自体がアイツの魔術で、アイツはこのホテルの中では炎を使ってどこにでも移動できる」
「そういう事でしょうね。ああもう、やっかいね」
 つまり、敵はこのホテル内では無敵という訳だ。
「貴様らに我を倒すことなどできるまい」
「その通りでございます。炎の扱いにかけては、陛下の右に出る者はおりません」
  敵の後ろに控えていた男がそう発言した。
「そうだろうよ。我はキャスターのサーヴァント、ネロ=クラウディウス=カエサル=アウグストゥス=ゲルマニクス。もはや貴様らに勝ち目はない」
  その名前は聞いたことがある。暴君ネロ。彼は後世となり、そう評されるようになった。彼は哲学者セネカを家庭教師とし、優れた政策を施行していたが、後継者争いが起こると、ネロは次々に肉親や反逆者を殺すなどの非常に忌まわしい過去を持つ人物である。
「我の宝具『ローマの大火』から貴様らが逃れる術は既に残っていない」
 "ローマの大火"とは、ローマ市内のほとんどを焼き尽くし多くの被災者と死傷者を出した大火災である。その際、ネロは大火をキリスト教徒の仕業であるとして、彼らを迫害した。
「貴様らも、我に抵抗し続けたキリスト教徒らのようになりたくなければ、我の臣下となることで特別に許してやろう」
 ヤツの言うことなど受け入れるつもりなど一切ない。
「ばっかじゃないの?アンタなんかの臣下なんて誰もやりたがらないわよ」
 遠坂も過激ではあるが、同意見のようだ。
「はっ。ならば死ぬがよい。行くぞ」
 俺たちを飲み込まんばかりの灼熱の炎が、俺たちを飲み込まんばかりに、龍の姿で差し迫ってきた。

 

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