こぴっどく美綴に叱られた後も、俺が土蔵で寝ていたことを知ったセイバーの鋭い視線を浴びながら朝食を作るはめになった。気まずい沈黙が続いたが、次第にそれは緊張感へと変化していった。会話はないが皆考えていることは同じはずだ。今日は間桐邸に乗り込む日。そのことを忘れている者はいない。
「衛宮、遠坂が動き始めたらしい」
 現在ライダーが遠坂邸を偵察している。そのライダーからパスを通じて美綴に連絡が入ったようだ。
「よし、俺たちも急いで向かおう」
 たとえ相手の罠だったとしても、俺たちは桜を救いに行く。遠坂がそこにいるなら尚更だ。俺は立ち上がり、美綴に手を差し出した。
「待ってよ、衛宮」
 美綴は不安な顔で俺を見上げていた。
「どうしたのさ、美綴」
「あたしさ、嫌な予感がするんだ」
 記憶喪失の美綴が不安を感じるのは、別段不思議なことではない。しかし、これまでの美綴とは明らかに違う雰囲気にただならぬ気配を感じていた。
「セイバー、何か感じるか?」
「ええ、漠然とした不安は感じています。しかし、ここにいては何の変化も起こせないのは確かです」
「そうか……」
 セイバーは、直感Aのスキルを持っている。そのため、セイバーが不安を感じるのであれば危険が迫っている可能性が高いのだ。
「分かった。セイバーと美綴はここに残って、俺がライダーと合流しよう」
 単純なことだ。 なにも全員が行く必要はない。魔術の使えない美綴には護衛としてセイバーをつけ、留守中の不測の事態に備える。
「衛宮!!そんなこと、あたしが許さないよ」
「けど、それだと……」
「あたしが行って、衛宮とセイバーさんが残ればいい。ライダーのマスターはあたしだ。衛宮」
「美綴だけ行かせるわけないだろ」
 俺と美綴が向かい合い睨み合っていると、間を割るようにセイバーが入ってきた。
「ならば、全員で向かうしかないでしょう、シロウ、アヤコ」
 セイバーの言うことは正論だ。しかし、美綴に危険が及ぶ可能性に俺の不安感も拭いきれない。
「シロウ、アヤコは私が護ります」
 俺にだけ聞こえる声でセイバーが言った。
「頼むぞ、セイバー」
 そうセイバーに返事をし、
「全員で行こう」
 今、桜を助けに向かう。 
 
 
 
 
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