屋敷を静寂が支配している。わたしの足音しか聞こえてこない。もちろん人の気配など感じられない。
「……不気味ね」
遠坂家と間桐家の間で続いていた相互不可侵契約をわたしが破り、間桐家に侵入したにも関わらず、何も起こらない。そればかりか、誰一人として出会わない。
「罠だとして、引き返すつもりなどないのだろう、凛」
霊体化しているアーチャーが皮肉を言ってくる。
「アンタもわたしを止める気はないのでしょう」
「つまらぬことで令呪に逆らう余裕などないからな」
苦笑混じりのアーチャーの声が返ってきた。
「ねぇ、アーチャー」
「なんだ、凛」
地下に下りる階段を前にして、わたしはアーチャーに問いかけた。アーチャーは、すぐ隣に現界した。
「わたし、間違ってるのかな?」
自分の口から出たこの問いが、魔術師としてなのか人としてなのかは自分でも分からない。ただ漠然と不安が募っていた。魔術師として最も大切な感情のコントロールという部分で、わたしは自分を見失っていた。
「凛、それは私が決めていいのか?」
「つまらないことを聞いたわね。悪かったわ」
もう、ここまで来て引き返すわけにもいかないのよね。