深山町からバスに乗って俺たちは新都に来ていた。平日とはいえ、街は人で賑わっている。
新都で必要な買い物を済ませ、宅配便で衛宮邸に届くよう手配した。様々な雑貨や衣類を買ったが、美綴の趣味は控えめだが女の子っぽいものが多く、驚きの連続だった。雑貨店で美綴がウサギ型をしたティッシュペーパー入れを見て……
『これ、欲しいな……』
と、頬を染めて呟いた時なんて、あまりのギャップに美綴の顔を凝視してしまい……
『なんだよ衛宮。あんまり見ないでくれ』
と叱られてしまった。たぶん本人も自覚はあるのだと思う。まぁ、その仕返しに……
『衛宮、次はあたしの下着選びを手伝ってくれる?』
と言われた時はさすがに焦った。そんな俺の様子を楽しんでから、セイバーと二人でランジェリーショップに入って行ったからいいものの、今日の美綴ならやりかねなかったから店の外で待つ間も気が気ではなかった。
それにしても今日の美綴は可愛かった。もしかしたら記憶を失ったことで、今は素顔の美綴が投影されているのかもしれない。
その後、新都を三人でブラブラと歩いている。ゲームセンターに立ち寄って、真剣にシューティングゲームで勝負したり、いかにも男子禁制なファンシーショップの前で商品に見惚れている美綴を見かねて玉砕覚悟で入店してみたりもした。
そして現在、俺たちは冬木市中央公園にいる。ベンチに座って一休憩しているのだが、やはりここはどうにも落ち着かない。そんな俺の様子を感じ取ったのか、心配した声色で俺に声を掛けてきた。
「衛宮、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
言葉とは裏腹に、俺の息は荒くなっていた。
「シロウ、ここは離れましょう」
「いや、俺なら大丈夫だから……」
俺はそう言ったが、二人が聞いてくれるはずはなかった。美綴の手が俺の手に重なる。
「ねぇ、衛宮が言ってた冬木市の大火災はここで起こったんじゃない」
「…………………」
「やっぱりそうよね。ほら、行くよ衛宮」
美綴はベンチから降りて、俺に手を差し伸べた。
「あたしの体と衛宮の心のどっちが今大切かなんて考えるまでもないだろ。あたしにとっての心の支えは、衛宮と遠坂とセイバーさんしかいないんだからさ」
「……美綴」
俺は美綴の手を握りしめ立ち上がった。俺たちは振り向くことなく公園の外に出た。
冬の冷たい風が躯に凍みる。それでも忘れられた記憶が風に乗って戻って来ることはなかった。
美綴と手を繋ぎ歩く。
切嗣の背中に背負われて火災から生き延びたあの日のように、この時新しい運命の歯車が回りだしたのかもしれない。
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