「美綴、それは……」
「えっ……」
  美綴の肩に発現した令呪。唐突な出来事に誰も身動きが取れなかった。
「ライダーさん…あたし」
  ライダーも理解が追いついていないようだ。
「あたし、これでマスターになれる」
  単独行動のスキルを持つライダーであってもマスターを失った状態では半日もすれば消えてしまう。もし、美綴がライダーのマスターになればその心配はなくなる。
「アヤコ、しかし私は……」
「ライダー、サクラのサーヴァントであり続けたい貴女の気持ちは分かります。ですが、サクラの幸せと貴女のエゴのどちらが大切だと思いますか。アヤコと契約しなさい。貴女はこのまま消えるべきではない」
  ライダーの声を掻き消すように、セイバーの澄んだ声が冬木港に轟く。
「ライダーさん、あたしさ。記憶を失って、生きる意味を失ってたんだ。衛宮や遠坂があたしを励ましてくれたけど、あたしは魔術を使えるわけでもないじゃない。記憶を失って、守られているだけでいいのかって考えた。考えても答えが見つかることはなくて……やっと、あたしの役割が見つかったってわけ」
  いつしか吹き荒んでいた風も止んでいる。そして、雲間から漏れ出ずる光が二人に射し込んでいた。
「ライダーさん、あたしと組まない?」
  弾んだその声は先程の重苦しさを吹き飛ばしていた。空元気であったとしても、その決意は揺ぎがない。一人のマスターがここにいる。
「一度契約してしまえば後には戻れません。それでも良いのですか、アヤコ」
「ええ、乗り掛かった船ですから」
  ライダーは深く息を吐いた。
「分かりました。アヤコ、契約の儀式を始めます」
  こうして美綴綾子はライダーのマスターとなった。


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