「おかえり、遅かったわね」
 居間の襖を開けると、遠坂が座っていた。
「遠坂、実はさ」
「サーヴァントに襲われたのね、それで綾子は無事なの?」
「ああ、無事だ」
  遠坂の表情は険しい。まるで話の流れを見透かしているように、遠坂は魔術師の目をしていた。
「それで、わたしに言いたいことがあるのでしょう」
 静謐とした室内。遠坂の鋭い視線が俺に突き刺さる。
「ああ。美綴がライダーのマスターになった。そして俺は美綴と共闘を申し込んだ」
  遠坂は静かに立ち上がった。
「そう。これで、あなたとの契約は解消ね」
 無情にも遠坂はそう言い放った。
「遠坂……確かに美綴がライダーのマスターになって、俺は美綴と組むことにしたけど、お前とだって……」
「わたしとだって何よ。学校に結界を張ったサーヴァントを倒すためにあんたと契約しただけよね。そのサーヴァントのマスターが綾子になった今、綾子と組んだあなたは、わたしを裏切ったということで間違いはないでしょう」
 遠坂の口調に迷いはなかった。感情的にもなっていない。魔術師遠坂凛としての対応。昨日のような遠坂の姿はどこにもない。
「俺は遠坂を裏切ったわけじゃない。これには理由が……」
「全て使い魔を介して見たわ」
「それなら……」
 桜とのやり取りを一部始終見ているならば、遠坂を説得する余地はある。遠坂は、人の痛みが分かる優しいヤツだから……。
「忠告するわ。次にわたしと会ったときはあなたたちの命はない。今度こそ容赦はしない」
 口を開こうとした俺に返ってきたのは、俺の介入すら寄せ付けない拒絶の言葉だった。
「さよなら、衛宮くん。あんたとの共闘は悪くなかったわ」
「待ってくれ遠坂!」
 俺の横を通り過ぎ、出口に向かう遠坂を俺は呼び止めた。
「一つだけ答えてくれ、お前と桜は一体どういう……」
「血の繋がった姉妹よ」
 遠坂は再び歩き始めた。
 廊下で待っていた美綴の横も、無言で通り過ぎる。
  そこに俺の知る遠坂はいなかった。

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