「衛宮、遠坂は?」
「帰ったよ」
 遠坂と話をつけるため、美綴とライダーには玄関で待機してもらっていた。美綴は玄関で遠坂を見送り、すぐに居間へと駆けつけたのだろう。
「あたしはそんなことを聞いているんじゃない。遠坂はなぜ帰ったんだと聞いているのよ」
「俺が美綴と共闘を申し込んだことで、遠坂との共闘関係は崩れたんだ。再度共闘を申し込んだが、遠坂に拒否された」
「どうして?」
 いつも冷静に物事をこなす美綴がこれほどまでに興奮している姿を、俺は今までに見たことが無かった。
「聖杯戦争は、願望機である聖杯をめぐって8人のマスター同士殺し合う儀式だ。本来、俺と美綴も敵なんだよ。それを共闘という形で、一時的に停戦をしているに過ぎない。そして遠坂とも俺は、学校に結界を張ったマスターとサーヴァントを倒すという共通目的があったから共闘していたんだ。だけど。美綴がライダーのマスターになってしまった」
「学校に結界を張っていたヤツっていうのがつまり、ライダーなわけ?」
「そうだ。だからライダーのマスターになった美綴と共闘関係になった時点で、俺は遠坂を裏切ったことになる」
「ちょっと待ちなよ。衛宮と間桐のやり取りを遠坂は見たわけじゃないでしょ。それなら、そのことを説明すれば遠坂だって……」
「いや、遠坂は知っているんだ。使い魔で俺たちを監視していたらしい」
「そんな……」
 室内が静まり返る。俺と美綴が対峙し、セイバーは正座して俺たちを黙って見守っている。ライダーの姿はない。
「でも、俺は遠坂のことを信じてる」
 俺は、自然とそう口にしていた。
「遠坂は最後まで俺たちを攻撃することはないと思う。確信はないけど、俺はあいつのことを信じてる」
「衛宮……」
「だから、俺たちは俺たちにできることをやるしかない」
 セイバーの方に視線を向けると、セイバーは小さく頷きを返してくれた。
「まずは、状況を確認しよう。話を整理して、これからの作戦を立てる。遠坂を説得するかどうかも、そのあとで決めればいい」
「シロウの言う通りです。ライダーも呼んで作戦会議を開きましょう。話し合うべきことは山ほどあります」
「……参った。衛宮がまさか、そこまで頭の回るヤツだったとはね。見直したよ」
「記憶を失って、俺と初対面に近いのにか」
「あたしゃ、記憶を失う前から人を見る目は合うと思うんだがね。違ったか、衛宮?」
「そうかもな。美綴には散々馬鹿だと言われていた気がするよ」
「分かればいいさ。じゃあ、話し合いをしましょうか。あたしはどこに座ればいい?」
「ここでいいんじゃないか?」
 手近な座席を指差すと、美綴は思案顔で俺に尋ねてきた。
「そこは遠坂が座っていなかった?」
「そうだけど」
「やめた。ここにするわ」
 そう言って美綴りは、俺が指した席を遠く避けるように反対側に回り俺の隣に座った。


戻る

inserted by FC2 system