夢ならば覚めて欲しい。ここ数日、あたしは自分を見失っていた。路地裏で女の吸血鬼に血を吸われて以来、生きている実感がない。あたしは何を思い、何のために生きているのか。ただただ、時が過ぎるのを待っていた。

  ふと気づいた。
『あぁ、これは夢なのか……。だったら、学校に行って確かめよう』
  あたしは、自室のベッドを抜け出し学園に向かった。ひたすら歩いた。意識はあったが、歩いていた記憶がない。引き寄せられるようにあたしは学園に向かい、たどり着いた。
「……うっ!」
  門をくぐった瞬間吐き気と目眩が襲ってきた。
『夢なんだから関係ないか』
  気にせずあたしは校舎に入っていった。気を抜けば倒れそうだ。次第に自分が消えていく感覚。
  遠くを見つめた。近くに意識を集中すればあたしはきっと消えてしまう。そう思ったからだろう。

  一階の教室で何かが動いている。ガイコツ……人体模型だろうか。骨だけで動いている人型が、黒髪の女性を囲んでいる。ツインテールで凛々しい動きをする女性。きっと彼女はあたしの友人、遠坂凛だ。遠坂らしき女は、ガイコツを駆逐していた。女の指から黒々した塊がほとばしる。ガイコツに命中し、ガイコツは派手に粉砕された。
  そんな光景をあたしは、映画の1シーンを鑑賞するかのように、第三者となってぼぅと見ていた。
  すると、女がこちらに振り向き、目が合った。やはり、女は遠坂だった。遠坂は驚いた表情をしていた。
  つい先日まで当たり前だった生活が、今では遠い世界に感じる。現実か夢かなんて分からない。朦朧とする意識の中で、あたしはあたしを取り戻すべく、あの場所に向かっていた。

 

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