「おーい。遠坂、もう行くぞ」
「ちょっと待ちなさいよ、朴念仁。女の子は準備が忙しいの」
 修学旅行初日の朝、いつもより早く朝食を済ませ、荷物を持って玄関に来た俺たちは遠坂を待っている。
「セイバーは準備しなくて大丈夫なのか?」
「はい。準備なら昨日の内にバッチリ済ませましたから」
 セイバーはセイバーでまぁ、心配なのだが、やはり満面の笑顔で返されては反論しようがない。
 しばらくセイバーと話をしていると、遠坂がスマートにまとまった荷物を持ってやってきた。
「待たせたわね」
 遠坂は俺とセイバーの姿を見て、嫌味ったらしくそう言った。
「遅いですよ、リン。旅には早くそして焦らずに行くのが一番いいのです」
 いや、セイバー別に戦に行くわけではないんだが………。
「二人とも気合いが入ってるのはいいけど、あんまり張り切りすぎると疲れるぞ」
 二人の気合いの入り方も、若干ずれているような気もするけど……。
「そう言う士郎も、昨日から仕込みをして今日の朝早くから弁当を作っていたじゃない」
「確かにそうだけどさ……」
 このクラスで修学旅行に行くのは最初で最後な訳であり、張り切るのも仕方がないか。言われてみれば、俺も今日の弁当は気合いを入れて作ったからなぁ。
「そんなことより、急ぎましょ。ゆっくり歩いてぎりぎりに着くぐらいの時間よ」
「そうだな。今日は荷物もあるし、急ごう」
 戸締まりをして家を出る。三人でもうすっかり馴れ親しんだ通学路をゆっくりと歩く。
 いつものように三人で他愛もない会話をして、いつの間にか学校に着いていた。
「士郎ーーー、こっちこっち」
 修学旅行が学校行事であることを全く気にすることなくタイガー………もとい藤ねえが大声で俺の名前を叫ぶ。こんな公衆の面前で好奇の視線に晒されるのは非常に辛い。そして最悪なことに、学園のアイドル遠坂凛と金髪青眼の美少女セイバーを携えているのだ。本当に勘弁してほしい。
「朝から大変だな衛宮。遠坂とセイバーさんを連れてちゃ仕方が無いと思うけどね」
 美綴から声をかけてくれた。どうやら、俺たちの到着は結構最後のほうのようだ。
「うむ、衛宮。ご苦労だったな」
 不意に後ろから一成が声をかけてくれた。
「美綴に、一成か。誰かさんのおかげで、出発に手間取ってさ」
「ちょっ・・・莫迦っ」
 遠坂の呟きで、自身の発言があまりにも軽率だったことに気付く。
「ははーん。お二人さんは仲が宜しいようで」
 もちろん見逃してくれることはなく、美綴が口元を緩めて追及してくる。
「衛宮くんとセイバーさんとは、通学路の途中で偶然出会ったのです」
 非の打ち所のない完璧な優等生を演じる遠坂。しかし、今の発言はまずい・・・。完全なる自爆だ。
「ん?じゃあ、衛宮の言ってた支度って?あたしゃあ、遠坂さんがまた何かをしでかしたと思っていたけど」
「セイバーさんのことではないでしょうか」
 あからさまな美綴の挑発に乗ってしまう遠坂。上手くやり過ごしてくれればいいけど……。
「なるほどねぇ。でも、そうなると通学路の途中で偶然衛宮たちと出くわした遠坂さんも出発が遅れたってことになるよな。優等生で学園のアイドルでもあろう遠坂さんが集合時間ぎりぎりに学園にくるなんて、どういう風の吹き回し?」
「どういう風の吹き回しですって?高校生活では一度しかない修学旅行の初日なのですから身嗜みに気を使うのは当たり前じゃないですか、それを衛宮くんが急かして……。だいたい、衛宮くんがいつもより早くわたしを起こしてくれなかったから出発がぎりぎりになって………あっ」
 遠坂はまんまと相手の罠に、それも見事なまでに嵌ってしまったのであった。
「無理して優等生ぶるからボロが出るんだ。おかげで今日の夜は退屈しないけどね」
 さすが美綴、遠坂の扱いは馴れていらっしゃる。夜の女子部屋では恐ろしいことになるだろう。その後の遠坂の八つ当たりの方が俺にとっては恐ろしいが……。
「ともあれ、これで全員揃ったな。みんなはバスに乗り始めてるし、あたしたちもバスに乗ろうか」
「そうだな。修学旅行もいよいよか」
 そうして俺たちもバスに乗り込んだ。後ろのほうは既に埋まっており、俺たちは前のほうに座ることとなった。先に乗り込んだセイバーと美綴は隣同士で座り、俺は一成の隣に座ろうとしたのだが……。
 遠坂にがっしりと手を掴まれ、遠坂の隣に座らされた。
 "すまん一成"と合図を送ると、一成は後藤君に捕まったみたいで俺たちから2席ほど前方の席に座ったようだ。
 
 

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