今日のホームルームでは、修学旅行のグループ班を決めるらしい。クラスがいつもより騒がしく聞こえる。穂群原学園では毎年、三年生の一学期で修学旅行に行く。行き先は京都だ。旅行先では、ほぼグループ行動を取るのだそうだ。さすがは自由な校風の我が校であると思う。
「衛宮は俺とでよかったのか?他にも誘われたのであろう?」
「いやいや、むしろ一成と同じ班で嬉しい。落ち着いて回れるしさ」
「うむ。ならばいいんだ」
 まずは男女で分かれ、2〜3人で組むことになっていた。そして、合計5人の班になるよう男女で合流する。俺はかねてからの約束通り一成とペアを組んだ。いよいよ、女子と合流ということになり、俺たちは3人組の女子グループを探した。すると、後ろから肩を叩かれた。
「衛宮と柳洞、あたしらとグループ組まない?セイバーさんには衛宮が付いていた方がいいしさ」
 声の主は、弓道部元主将の美綴綾子。その後ろには、遠坂とセイバーが立っていた。遠坂は俺と目を合わせようとしない。なんとなく遠坂の言いたいことは分かる。俺が一成と組んだことが気に入らないのだろう。そんな遠坂のことを俺が気にしていると……
「あら、衛宮くん、なにか、わ・た・しの顔に付いているかしら?」
 そう言って遠坂は極上の笑みを見せてくれた。
「悪いな一成。この班でもいいかな」
 とりあえず話を逸らす。後で二人っきりになったとき遠坂にいじめられるのは間違いないが、赤い悪魔の挑発に乗る方が自滅の確率は高い。正直、遠坂と同じ班になりたいし、まずは一成と遠坂を説得しないとな。
「俺は構わん。俺より女狐に聞いた方が良いのではないか、衛宮」
 大人の対応をありがとう、一成。一成も俺が遠坂と付き合っていると知ってから、別れろとは頻繁に言ってくるが、遠坂をあからさまに嫌う素振りはしないようにしてくれていた。二人が犬猿の仲であることには変わりがないが……。
「遠坂は俺たちと同じ班でいいかな」
 ネコに怯えるネズミのように、俺は遠坂に恐る恐る質問した。
「わたしたちの方から衛宮くんたちにお願いしているのですから、わたしが断る理由はありませんわ」
 微笑みながら優雅に答える優等生モードの遠坂。そんな遠坂を憧れていた昔の自分が懐かしい。
「シロウやイッセイと同じ班で私も嬉しい」
 遠坂の隣で静観していたセイバーが口を開いた。そんな風に笑顔のセイバーに言われては、断れる人はいないだろう。
「そうだぞ衛宮。なに遠慮してるんだ」
 美綴は笑いながらそう言っている。
「いや別になんでもない。それじゃヨロシク頼むよ」
 俺は少し焦りながらセイバーに挨拶をした。
「ふむ、宜しく頼む」
 一成は律儀にお辞儀をしていた。
「なんで、セイバーとわたしだと皆態度が違うのよ」
 そんなことを遠坂はぼそっと呟いていた。こりゃ、後でフォローしないと本当にまずいな……。
「ともかく班は決まりでいいね。あたしが報告してくるから待っててくれ」
 美綴は、藤ねぇ…もとい藤村先生と少し話した後、書類を何枚か貰って戻ってきた。
「班長は衛宮にしておいたから、後はよろしく」
「……はい?なんでさ?」
「班長に適任なのは衛宮しかいないでしょ?あたしらの中ではさ」
 いやいやいやいや、ちょっと待て。弓道部元主将の美綴綾子、生徒会長柳洞一成、学園のアイドル且つ優等生遠坂凛に加え、元ブリテンの王セイバー。どう考えたって、俺より班長に適任な人物が揃ってるじゃないか……。
「なんだよ衛宮、怪訝な顔して。わかった、ここで多数決を取ろう。衛宮が班長でいいと思う人拍手して」
 美綴がそう言うと俺以外の皆が拍手をしだした。文字通り皆が拍手している。クラス全員が……。なんなんだろうこのクラスは……。
「ということで今度こそよろしく。はい、書類」
 反対する余地もなく、クラス公認で俺が班長になった。それを見送ると皆は何事もなかったかのように話し合いに戻っていった。
「シロウが長ですか。それなら安心できます」
 と、セイバーはにっこり笑いながらこちらを向いていた。
「はぁ……、わかったよ。じゃあ、コースを決めるぞ。皆、意見を出してくれ」
 美綴から書類を受け取り、班での話し合いを始めた。遠坂と恋人の関係になって迎える修学旅行。俺たちの班には美綴と一成、そしてセイバーもいる。きっと楽しい旅行になるだろう。
 
 
 

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