「ひどいです、アレカちゃん。ユウゴくんを叩くなんて」
  心配そうにエフィさんが俺のもとにやってきてくれる。
「もう慣れたから大丈夫だよ。ありがとう、エフィさん」
「そうなの?でも、またアレカちゃんに乱暴されたらわたしに言ってね」
 エフィさんとそんな微笑ましいやり取りをしている最中、アレカを見れば終始不機嫌であった。
「これであたしもお役目御免なのか。それはそれで悲しい気がする」
  なぜかディオネさんが感慨深そうに呟いている。
「何バカなこと言ってるのよ、ディオネ」
「彼氏ができたんだから、いつものようにあたしに突っ込んでたら浮気になっちまうもんなぁ」
「ちょっ……なに勘違いしてるのよ。ユウゴの顔がちょうどいいところにあっただけよ」
  それだけで俺は叩かれたのか。なんだか、理不尽すぎる。
「なに慌ててるんだ?アレカ」
「あっ…慌ててなんかいないわよ!」
  アレカはディオネさんにそう答えて、俺を睨み付けてきた。
「ふふっ。お二人とも初々しくてお似合いですよ」
「ちょっと、フローラまで……」
  フローラさんにまでからかわれてしまい、アレカは困ったように俺の方にやってきた。そして俺の耳元で呟いた。
「あんた、あとでわかってるでしょうね?」
  少しの間とはいえ、アレカのことを女神だと勘違いしていた俺は愚かだと思う……。
「二人で内緒話なんてさ、見せ付けてくれるな、お前ら」
「そんなんじゃないわよ。部屋の片付けしてくるからちょっと待ってて」
  ディオネから逃げるように、アレカは家の中に入っていった。
「逃げられたな」
「そうだね〜」
  ディオネさんとエフィーさんは楽しそうにしている。
「そうでもないのではないでしょうか」
  そう言うフローラさんは俺の方を見ている。
「いたな」
「そうだね〜」
  ディオネさんとエフィさんは、ますます楽しそうだ。
「なぁユウゴ、お前とアレカって駆け落ちか?」
  ディオネさんは単刀直入にそんなことを聞いてきた。
「違いますよ。アレカも言っていたように、俺とアレカは偶然出会っただけで……」
「じゃあ、どうしてユウゴくんはここに来れたの?」
  正直理由は自分でも分からなかった。ただ、ここに来る前の出来事なら鮮明に覚えている。
「秋葉原の公園で休んでいたら、誰かが忘れていった紙袋を見つけて警察に届けたんだけど、なぜか俺が警察に追われて、逃げて、気付いたらここにいたんです」
「成る程ねぇ、まぁユウゴの真剣な様子を見れば嘘には見えないけど、まさか認識阻害を破る人間がいるとはねぇ」
「アレカさんのトラブルメーカーなところは、一生治らないんでしょうね」
「はははっ、違いない」
  そんな会話をしていると、急に体が熱くなってきた。
「っく……うあっ」
「どうしちゃったんですか、ユウゴくん?」
「体が熱くなって……」
「そうですか。アレカさん、間に合いませんでしたね」
「……そうだな」
「うわぁっ」
“ぷしゅん”
  そうして俺は、その場から消えたのであった。
 
 
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