目を開くと、そこには美しい庭園が広がっていた。花の香り、水のせせらぎ、爽やかな空気。
「まさか、俺……」
  先ほどまで秋葉原で買い物をし、なぜか警官二人に追われていた俺は、見知らぬ場所で倒れていた。
「……死んじゃったのか」
  あの後俺は、警官に銃で撃たれて死んでしまったのだろうか。だとすれば、なんて儚い人生だったのだろう。けれど、ここが天国なのであれば俺の人生も間違いじゃなかったってことだ。
「天国に来れて嬉しいけど、俺さ……もっとやりたいこと沢山あったのに」
  考えれば考えるほど実感がわいてくる。ああ俺、死じゃったんだ。彼女もできないで、コミケに参加もできないで、人生でやり残したことが山程ある。今更嘆いても仕方がないけど……。
「死んじゃっただなんて……信じられないよ」
  自然と涙が出てきた。俺の人生は辛い人生だと思ってた。死にたいと考えたこともあった。だけど、こうして自分が死んでしまうという状況に直面して、俺は悲しさと悔しさで泣き崩れている。もし嘘なら誰か嘘だって言ってほしい。
「……アンタ、死んでないわよ」
「……うわぁ!」
  背後から女性の声がして、慌てて振り返ったがそのままバランスを崩して女性の上に覆いかぶさるように倒れた。
“フニッ”
 人生で体感したこともないような柔らかい感触。ああ、やっぱりここは天国なんだ。
「……ひゃあ!どこ触ってるのよ、変態!!」
“バシン”
  物凄い力で俺は顔をひっぱたかれた。
  激しく痛い……痛いぞ。
「天国って痛覚はあるんだな」
「何バカなコト言ってるのよ。早く退きなさい、変態!」
“グフッ”
  強烈な右フックが俺のボディーに炸裂した。ボクサー顔負けの電光石火な一撃だった。俺はそのまま左に倒れこみ仰向けになった。
  すると女の子は俺の腹の上に乗った。それで、見えてます……ミニスカートから覗く純白のパンティ。やっぱり、天国ってすごい。
「きゃっ、ちょっと、どこ見てるのよ!!」
“ズドンッ”
  女の子の拳が鈍い音を立てて鳩尾にのめり込んだ。
「がはっ…ごほっ…ごほっ……うあっ」
「ありゃ……大丈夫?」
  やりすぎたかっていう顔をしながら心配そうに見つめてくる女の子。今更ながら彼女の顔をじっくり見る。そして、思った……。
「お前……可愛いな」
「なっ……変態ヤロウ!」
“バシィーーーン”
  手加減なんて概念は一切含まれないビンタだった。
「……あっ、ごめん」
  いや、今更謝られてもな。
「いい思いさせてもらったし、その代償としては少ないくらいだ。天使さん…いや、女神さまか……」
  こんな美人がいるなんて、天国ってすごいところだと思う。
「わたしは天使でも女神でもないわよ。ただの人間。まぁ、アンタたちと違って魔術が使えるけど…」
「……いや、だってここ天国だろ?」
「だから違うって言ってるじゃないの!ちゃんと説明してあげるからおとなしく聞きなさい!」
「……はい」
  なんか俺、初対面の女の子に怒られてます。
「まず、アンタ名前は?」
「俺は篠宮雄伍。キミは?」
  そういえば彼女の名前も知らない。
「わたしの名前はアレカ。天空人には姓は無いの。だから皆正式には、得意な魔術を頭に付けて呼び合うのよ。因みにわたしは『水のアレカ』よ。よろしくね」
  アレカさんは、初めて俺に笑顔を見せてくれた。やっぱりべらぼうに可愛いかった。
 

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